三城×幸田・お礼用SS
(花火大会・4)



握り合った手の暖かさは心地よかったが、少し強く前方に引かれるものだがら幸田は馴れない下駄で前のめりに歩くのがやっとだった。

手を繋いで歩くなんて滅多に経験が無く、照れと嬉しさが混じり合って幸田の鼓動は否応に高鳴るし、夏の暑さと緊張から手のひらにじっとりと汗を掻き、それを悟られるのは恥ずかしい。

ホテルを出て何処をどう歩いたのか俯きっぱなしの幸田には解らないが、暫くしてふと顔を上げ辺りを見てみると人波の流れに乗っていた。

人波はすぐに人ごみと言っていい混雑になり、歩行者天国となっていた路上の左右には屋台が並ぶ。

賑やかな声がどこかしこから聞こえるし、特有の食べ物の匂いが鼻腔を擽る。

何事かと周囲を見渡した幸田はそういえば花火大会が有るとポスターが貼っていたと思い出し、「なるほど、花火大会に浴衣か」と一人合点が行った。

(それならそうと言ってくれれば良かったのに。)

花火大会が女装をする理由にはならないが、少なくとも訳が解らない困惑はしなかっただろう。

幸田は場にそぐわないスーツ姿の三城を斜め後ろから見上げ、無意識に唇を突き出した。

いつも肝心な所を言ってくれない気がする。

まるで方程式を見せればおのずと答えは理解出来ているだろうと言われているかのようだが、生憎三城ほどの頭脳を幸田は持ち合わせていない。

出来れば最後まで説明がほしいのにと内心苦情を言いながらもそれを口にはできず、諦め交じりでため息を吐いていると足元が疎かになってしまっていたようだ。

むき出しの足の指に小さな小石が挟まったかと思えば、アスファルトの割れ目に下駄が引っかかってしまい、幸田は傾く身体のバランスを取るために三城と繋ぎ合っていた手を離してしまった。

「きょういっ・・・」

「あっ・・・」

と思った時には繋がりの無くなった二人の距離はどんどんと広がり、すぐに人の壁に阻まれて互いの姿など見えなくなった。

その上幸田も人の流れに押し出されるように無理矢理に歩まされ、今自分がどこに居るのかも解らなくなる。

なんとか身体をねじ込ませ路肩に向かい、屋台と屋台の間で落ち着けた時には息が上がってしまっていた。

それでも浴衣が着崩れていないのは、椎名の恐るべき技術故だろう。

「・・・どう、しよう」

こんな人ごみで迷子になるなんて。

ガヤガヤと人の擦れ合う音がやけに大きく聞こえ幸田を包んだ。

もう二度と三城に会えないのではないか、などといった馬鹿げた考えも脳裏を過ぎり不安に拍車をかける。

目の前の非日常風景からも取り残されたような幸田は、ただただ立ち尽くすばかりだった。


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