三城×幸田・お礼用SS
(花火大会・5)



まずは落ち着かなければと、幸田は自分の胸をトンと拳で小さく叩き、大きく息を吐き出した。

目を閉じれば祭りの賑やいだ音がどこか遠くに聞こえたが、その中に三城の声は感じられず焦燥が募る。

だがそうとは言っても一人焦っていても仕方がないのも事実。

混乱していても良い結果は生まれないはずだ。

「そうだ、携帯!」

思い出したやいなや、幸田は椎名に渡された小さながま口のバックを開けた。

携帯に連絡を入れるなんて当たり前の事をどうして直ぐに思いつきはしなかったのだろう。

屋台の電灯が光るだけの薄暗い中で、幸田は嬉々としてバックの中を漁ったが、けれど仕切りもない小さな中身は一見として知れた。

「・・・ない。」

どこをどう見ても触っても、携帯電話が入ってはいない。

バックの中には可愛らしい小銭入れとハンカチが一枚。

それだけだ。

差し込んだ光明が厚い雲に隠されたようで、幸田は愕然と立ち尽くしてしまった。

もう本当に手立ては思いつかない。

はぐれる事なんて想像もしていなかったので、万が一の待ち合わせ場所なんて決めていないし、それどころかここまでの殆どを俯いて歩いてきたので、ホテルまでの道順も解らない。

「ここで・・・待つ?」

三城を探したくても闇雲に歩き回るのは得策ではないだろう。

だったらどうするべきか。

他力本願甚だしいが、他に選択肢もなかった。

迷子になってしまった場合、どちらか一方が動かなければ、もう一人は比較的簡単に相手を見つけれるはずで、三城はどう考えてもじっと幸田を待つタイプには思えない。

「仕方ない、よな。ごめんなさい、春海さん。」

諦めたような呟きと共にハンドバックの柄を握り締め、幸田は頭上の夜空を見上げた。

何も無い漆黒の空は、急激な寂しさを招く。

こんなに大勢の人が居るのに、自分の隣に三城は居ない。

「嫌だな・・・」

早く会いたい。

大丈夫か、心配したぞ、と囁かれたい。

脳裏に三城を色濃く思い描いていた幸田の肩が不意に叩かれ、瞬時に満面の笑みを浮かべると勢い良く振り返った。

「春海さん!・・・あ。」

花のような笑みはすぐに枯れたように萎んでしまった。

なぜなら、そこに居たのは見ず知らずの若い二人組みの男達だったからだ。



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