三城×幸田・お礼用SS
(花火大会・6)



見覚えの無い男達を前に、幸田はそっと首を傾げた。

人違いだろうか。

そうでなければ肩を叩き止められる理由など思いつかないのだが、薄明かりとはいえ互いの顔が確認出来ても、男達は離れるどころか幸田を挟むように左右に立った。

男達は見るからに「今時の」といった雰囲気で、流行の服装や髪型をビシッと決め軽い笑みを浮かべており、年齢にすれば二十歳そこそこ。

容姿としては悪くは無いだろうが、予備校教師をしている幸田からすれば完全に子供もしくはギリギリ生徒の域を出ない。

「お姉ーさん、こんな所で一人?」

「もしかして友達とはぐれちゃったとか?」

「俺たちが探してあげようか?」

畳み掛けるような言葉に幸田は口を挟めず、そもそも声を発する事も憚られたのでただ曖昧に笑って見せた。

この暗さでは近くで見ても女性だと思ってもらえたようだが、さすがに声はまずい。

どうやってこの場を逃げるか決めかね幸田は眉を潜めた。

三城を一緒に探してくれるという親切な申し出はありがたかったが、こんな人ごみの中で容易に探し出せるとも思えない。

いくら人員が増えたからといって、歩き回るよりもここで待っていた方が合理的だと言う考えは変わらなかった。

「それともさ、俺たちと遊んじゃう?」

「え?」

「それいーね。行こうよ、花火見る穴場知ってるしさ。」

これが所謂「ナンパ」だと気づいた時には遅すぎたようで、反射神経は並かそれ以下の幸田の腕は簡単に一人の男に取られてしまい、男の方へ強く引かれると反射的に足が前に出た。

「あっ・・・」

「そこに向かう途中で友達と会えるかもしれないだろ?」

「俺達ちゃんと探すからさ。」

ニヤニヤとした口調など、もはや信じるに値しない。

幸田は掴まれている腕を振り払おうとしたが、力の差は圧倒的でびくともしなかった。

どうしよう。

ついて行く訳にはもちろんいかないし、「止めてくれ」と言えばその声で男だとばれるかもしれない。

こんな公衆の面前で女装がばれてしまうのは恥ずかしい過ぎる。

(たすけて、春海さん・・・)

あの時どうして手を離してしまったんだろう。

今更の後悔が幸田の胸を突く。

(どうしよう・・・)

幸田が思わず瞳をきつく閉じた時、腕を掴まれていた力が緩むのを感じた。

逃げるなら今だ、と思うよりも早く幸田の頭部は横から何かに掴み抱きこまれてしまったが、それが「何」だとは考えなくても解る。

優しい香り、胸の鼓動。

ここが三城の腕の中でないはずがない。

「俺の連れだ。触るな。」

顔を見なくても三城の表情が伝わってきそうだ。

ここまで機嫌が悪いのも滅多にないだろうと思える声で三城が唸ると、男二人は小さく悪態を付きながら足早にその場を走り去った。

パタパタという足音など、賑やかな祭りの中ではすぐに聞こえなくなる。

「お前は何をやっているんだ。」

男達が去っても、三城の怒気は収まりはしなかった。

はぐれてしまい迷惑をかけた事におこっているのだろうか、それとも。

「すみません、携帯持ってなくて・・・」

「そんな事を言っているんじゃない。本当にお前は・・・・」

ほんとうにお前は。

何度も繰り返し呟いた三城は、その先の言葉の代わりに幸田の唇を塞いだのだった。



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