三城×幸田・お礼用SS
(花火大会・7)



今度は離れる事のないようにと、繋いだ手に指をしっかり絡められ幸田はほんのり頬が赤らむのを感じた。

俯き加減で自分の下駄を見つめながら歩いていると、三城が何度も繋ぎあった手に力を込めるので胸がドキドキと高鳴る。

恥ずかしいような、けれど嬉しい気持ちは止まらなくて、手を繋ぐなんて事を堂々と出来るのも女装のおかげなら、たまにだったらこんな恰好をしてもいいかもしれないと内心思ってしまう。

何処に向かっているのかは何故だか聞く事が出来ず、行きの二の舞と解りながらやはり周囲を見もしないでついていくと、そこは小高い丘のような公園だった。

開けたスペースの周囲を木々が取り囲み、ただベンチが数脚あるだけのそこに人気は無い。

街灯も申し訳程度にしか設置されておらず、薄暗さがいっそ不気味だ。

公園の真ん中辺りで立ち止まった三城は、絡めた指をそっと解放つとその手を幸田の腰に回し、身体がピタリと密着するように引き寄せた。

人気が無い二人きりの空間とはいえ屋外でこんなにも風にされては、経験の無さからどうしていいか解らなくなる。

さきほど人通りの多い通りのすぐ脇でキスをされた事を思えばこんな事くらいなんでもない気もするのだが、なかなかどうして平然とは出来ない。

下駄の高さがあるので、いつもよりも僅かに顔が近いからだろうか。

普段11cmある身長差が8cmくらいになったのかも知れず、違う角度から見上げる横顔は新鮮だった。

「ここ、ですか?」

ワザワザ幸田に女装をさせて連れて来たのだ、花火観覧の穴場という所だろうか、とも思ったのだが、それにしては花火は見えず、打ち上げる大きな音ばかりがやけに近く聞こえるだけだ。

よく見れば、ビルの側面に花火の光が反射しているのが見えた。

「あぁ、もう少し待て。」

もう少し、と言われても花火大会は中盤を過ぎている。

それどころかクライマックスに予定されているらしい(と、ホテルに貼られていたポスターに書いてあった)メインの花火も間もなくではないだろうか。

それとも三城の目的は花火ではないのだろうか。

「恭一・・・」

ふいに名前を呼ばれ反射的に傍らの三城を見上げると、何故だかとても切なげな表情をしていた。

時折輝く花火の光が見せた幻影のせいかもしれない。

「春海、さん?」

どうしたのか、と幸田が困ったとばかりに眉を潜ませると、手を繋いでいない三城のもう一方の手がその頬にそっと触れた。

いつも熱い手の筈なのに、今が夏の屋外だからかとても冷たく感じる。

「いや、すまない。・・・ただ、お前がここに居るんだな、と思ってな。」

「え?」

「恭一が隣に居る事がいつの間にか当たり前になり過ぎていて、離れてしまう恐怖を忘れていたようだ。」

苦笑混じりの呟きは生ぬるい夏の外気の中で妙にはっきりとした響きになり、動揺した幸田の揺れる瞳を見てか、三城の手は幸田の頬から直ぐに離れていった。

離れていく必要なんてないのに、止める事も出来ない。

「大丈夫です。春海さんが僕から離れて行かない限り、僕は絶対にずっと春海さんと一緒に居ます。」

あの余りある自信家の三城が。

こんな表情でこんな事を言うなんて。

そしてそうさせたのが自分だと思うと、幸田は胸の奥深くでとても熱いものが生まれたようなむず痒い感覚に襲われた。

ふわりと笑む幸田の表情はよく花に例えられるが、今ならば花火より美しいと称されるだろう。

「あぁ、お前は俺のものだ───」

─────ドンッ

三城の言葉が終わるか終わらないかの内に、一際大きな花火が煌々と打ちあがった。

「・・・あ」

先ほどまでビルに隠れていたはずなのに、今は何発もの大輪の花火が二人の頭上で艶やかに咲き誇っている。

「最後だけは角度が変わってな。ここが一番綺麗に見える。」

「ほんとうに、綺麗、です。」

なるほど三城はこの為だけにここを選んだのだ。

多く有るよりも少なくとも優したものを──なんとも三城らしいと、幸田は思わず微笑を浮かべた。

鮮やかな色彩の花火は、漆黒の闇に溶けてゆく。

他に音も光も存在しないかのような、どこか現実と切り離された空間で幸田はただ傍らの三城を感じた。

こんなにも愛しくて、幸せなのに苦しい。

人生をかけた恋とはこれをおいて他にないのだろう。

花火の光が二人の指輪を光らせていた事など、当の本人達は知らないのだった。


【おわり】
【拍手お礼SSなのに、こんなに長い連載になってしまい申し訳ありませんでした。
最後までお読みいただいた方、途中からで意味が解らなかった方、それでもここまでお付き合いくださり、ほんとうにありがとうございます。】



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