三城×幸田・お礼用SS
(三城の趣味)



一人きりの新居は、前の家よりも比べ物にならないほど広く感じる。

それは実質的な面積からではなく、ここが「二人の家」だからだろう。

もう自分だけのテリトリーではない。

そんな空間は要らないのだ。

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新居ではそれぞれ書斎を持っているというのに、一人きりの時でも三城はリビングで過ごす事が多かった。

じきに幸田が帰宅するともなれば尚更だ。

玄関に繋がる扉が正面に見る事が出来るソファーに座り、磨き上げられた光沢の黒いローテーブルに買い換えたばかりのミニノートを置いて、三城はイライラと煙草を吹かす。

PCのモニターにはきちんと映るべきものが表示されているというのに、まったく頭に入ってこない。

早く帰って来い・早く帰って来いと、念を送るかのように心中で唱えていると、インターフォンのパネルが光り、エントランスで鍵が開けられたと知った。

「・・・・・・」

ただそれだけの事で、ドクリと鼓動が鳴る。

もう、帰ってくる。

ソワソワと逸る気持ちが抑えられないというのに、そんな様子を恥ずかしくて見せられる筈もなく、カモフラージュだとPCにかじりついたのだった。

「ただいま戻りました。」

いくらもしないうちに帰宅した幸田は、スーツ姿のままジャケットだけを途中のダイニングテーブルの椅子にかけ三城に向かった。

「おかえり。早かったな。」

「そうですね。一刻も早く、と思って。」

頬を染めて笑って見せる幸田の表情は反則だ。

無意味に三城の鼓動が一つ大きく鳴らされ、唇を硬く引き結ぶ。

「お仕事中・・・ですか?」

「いや、ちょっと暇つぶしにな。」

「ゲームでもしていたんですか?」

さも意外そうに言った幸田は、ネクタイを緩めながら三城の隣に腰を降ろした。

無意識なのか甘えているのか、ピタリと肌が触れ合うように寄り添い、PCのモニターを覗き込んでくる。

「・・・・・数字ばっかり。」

「好きじゃないのか?数字は。今はFXをしているからな。こんなものだろう。」

「僕が好きなのは数学です。」

言い訳がましく言った幸田は僅かに頬を染めた。

「・・・・えふ、えっくす?」

「知らないのか?外貨取引の事だ。」

「あぁ、株みたいなやつですよね?」

「まぁ・・・・大きく言えば要は一緒だろう。」

「へぇ、そんな事していたんですね。」

「唯一の趣味だな。株もしてはいるが、あれは時間が決まっているからなかなかな。」

「へぇ・・・あぁ!それでか。」

「どうした、いきなり。」

「ずっと、不思議だったんです。春海さんの羽振りの良さが。いくら大きな会社の部長さんだからって、車もマンションもポンと買っちゃうし、服とか時計とかもいっぱい。」

「あぁ・・・そうだな。これで当たった時はパッと使うようにしているからな。」

「そうなんですか?でも、こういうのって損が出たりとか、借金とかってならないんですか?」

「俺がそんな失敗をすると思うか?外貨取引などと言ってはみても所詮ギャンブルで遊びだ。引き際さえ読み違えなければ大怪我はしない。」

「そんなもん、ですか。」

「そんなもんだ。身を滅ぼすのは自分の実力を解っていないバカだけだ。」

「・・・・」

「どうした?」

「いえ・・・なんだか、ますます違う世界だなって。」

「こんなものはただのマネーゲームだ。コインを賭けるか現金を賭けるかの違いに過ぎない。リスクの無いゲームになど燃えないだろ?」

どうでもよさそうに言った三城は、PCをシャットダウンさせるとミニノートのを閉じた。

「そんな事より、今日の出来事を聞かせろ。」

「えぇ?別に変わった事はないですよ?あぁ、そういえば・・・・」

話しは既に新しい話題へと変わり、幸田がなにやら楽しげに話し出した。

幸田の胸に腕を巻きつけ三城は自分の方へと引き寄せると、後ろから抱きしめる恰好で落ちつく。

これは自分の物なのだと、自分だけの物だと言って回りたくて仕方が無い。

自分は変わったのだろう、確実に。

ビジネスも株や外貨取引も、この世を動かすのは金で、それを操れるのはなんと楽しい事だろうと思っていた。

だというのに、今はそんなモノにさほど興味を持てない。

「世界」よりも、ただ一つ手に入れたい存在が今正に自分の胸の中にあるのだから。



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