三城×幸田・お礼用SS
(銀座のブティック)



昨晩も三城に攻め立てられ、酷く身体が重い。

一緒に暮らし始めてからは連日連夜、いわゆる「夫婦の営み」を勤しんでいるのだが、それも初めての週末ともなるとストッパーが外れたかのようにお互いを求め合ってしまった。

自業自得と言えばそれまでなのだが、手加減をしてくれなかった三城を少し恨んでしまう。

何故なら三城はと言うと、幸田とは裏腹にいたって元気で今朝も一人さっさと寝室を後にしたからだ。

「起き・・・なきゃ、な・・・」

ようやくだるい身体を起こすと、見計らったように三城がノックをせずに入って来たのが、あまりのタイミングの良さに何処かで見ていたんじゃないかとすら思ってしまう。

「起きたか。出かけるぞ、準備しろ。」

挨拶も無しに言ってのけた三城は随分と前から起きていたのだろうか、すでにスーツを着込み煙草を吹かしている。

皺一つないワイシャツに趣味の良い柄ネクタイはどちらもビジネス用よりは幾分派手だったが嫌みではなく、むしろ洒落て格好良かった。

幸田には解らないがスーツにしても違うのかも知れない。

「出かけるんですか?」

「あぁ。恭一はカジュアルな服装でもかまわない。ちょっとそこまで行くだけだ。」

「?・・解りました。」

三城がスーツで自分はカジュアル。

ちょっとそこまでと言いながら三城だけがスーツ、という状況に首を傾げながらも、慌てて立ち上がると幸田は手早く準備を進めたのだった。



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「・・・」

騙された。

完全に騙された。

確かに三城は嘘は言わなかったが、「ちょっとそこまで」がまさか銀座のブティックだとは思わないじゃないか。

店に掲げられているロゴマークには見覚えがあり三城のお気に入りの店だと知れたが、それはつまり誰でも気軽に入れる系統の店ではないという事だ。

それならそうと言ってくれれば自分もきちんとスーツ着用で来たのに。

まさかドレスコードがあるとは思わないが、それでもビシッと決めたスタッフや店内の雰囲気、何より隣に並ぶ三城に比べ幸田だけがカジュアルな装いで完全に浮いている。

その上、三城は入店するなりスタスタとフロアの奥へと歩いて行ってしまい、場違いな格好の幸田だけが入り口付近に取り残される事となった。

「・・・」

何故ここに連れて来られたのだろうか。

いつもの事ながら三城の行動意図は難解で明確には読めないが、買い物がしたかったのだったらそうと言ってくれればいいのに。

休日に一人にされたって、それを怒るほど青くもない。

今からでもそうと提案して先に帰ろうか。

それでは嫌味になるだろうか。

けれどまだまだ残っている引っ越しの荷解きもしたいし、 何より幸田の存在に気をつかって三城が急いでもいけない。

よしそうしよう、と一人頷いた幸田は頭の中から何かがスッパリ抜け落ちてしまったようで、スタッフと対話している三城を見つけると小走りに駆け寄った。

「・・・。・・・あ、居た。春海さん!」

「恭一。今呼びに行こうと思っていたんだ。」

「僕を、ですか?」

「そうだ。ちょっと此処に入れ。」

「へ?えぇ?」

二人の前に居るスタッフに目配せをした三城は、幸田を一角にある個室へと促した。

そこは試着したのような、けれど幸田の知る一般的なそれよりもずっと普通の部屋のように見え、とても美麗で高級感溢れる造りをしている。

目を白黒させるばかりの幸田の後にそこに入ってきたのは三城ではなく、先ほど三城と話をしていたスタッフと思われる年配の男性だった。

何気なく見た胸元のネームプレートには堂々『店長・須崎【すさき】』と書かれており、なるほどここで一番偉いのだろう、と納得のいく貫禄を兼ね備えた男だ。

「失礼いたします。」

須崎は一礼を寄越すと、ポケットからメジャーを取り出し幸田の身体にあてがった。

「え?えぇ!?」

「動かれますと正確に計れませんので・・・」

「あ、はい、すみません」

いきなりの事で対応が追いつかないのだ、と思って仕方がないのだが、この状況を作り出したのは三城であるはずで、須崎に言っても仕方がないのだろう。

言われるがままに身体を動かすこと数分。

須崎は最後にもう一度頭を下げ個室から出て行った。

「終わったか?」

ずっとそこで待っていたのか、近くの壁に寄りかかって居た三城がスマートな仕草で身体を起す。

気を抜いたポーズでもだらしなく見えず三城は何をしたって様になる、と内心思ったのは幸田だけの秘密だ。

「はい。・・・あの、これは?」

「オーダースーツ用の採寸だ。」

やはりそうか。

想像はしていたが、改めて言われると驚愕してしまう。

「オーダー・・・スーツ・・・」

まさか自分が。

よく耳にはするが言い馴れない(言う機会のない)言葉だ。

「あぁ。入学式の時用にな。」

「そんな、僕はこんな高級なところの買えません。」

採寸をしたのだから購入するのは当然の流れなのだろうが、とんでもない、と幸田は首を振った。

ここのスーツが一着いくらするのか知らない訳じゃない。

ピンからキリまであるとはいえ、キリと言えど幸田のクローゼットに並ぶ物よりも0が一つ多いだろう。

「何を言っている。俺が買うんだ。」

「でも、前も沢山・・・」

就職祝いと言ってスーツ一式に加えバックや靴も貰っている。

それ以前にだってここのスーツを何着も贈られていた。

「俺が、俺の為に、お前に買いたいと思って買っているんだ。何が不都合がある?」

不都合があるかと聞かれればある訳もなく、いかにも憮然と、まるで幸田が間違った事を言っているとばかりに言い放つ三城に、当の幸田は口を紡ぐしかない。

嬉しいけれど、それ以上に申し訳がなくて、そしてもっと強く感謝を感じる。

幸田は咄嗟に三城の手を取り、両手でギュッと強く握り締めた。

「あの、あの。ありがとうございます。」

「どうした、急に。」

「僕は、特別春海さんに何かしてあげれるとかじゃないけど、したいとは思っているんですけど、春海さんは何でも一人で出来るから。でも、あの、僕も本当に・・・その・・・」

出来る限りの事はしたいと、強く想っているのだと、羞恥心から喉が詰り最後までは口に出来ない。

けれど聡い三城には十分に伝わったようで、フッと口元を緩めると僅かに身を屈め、大きな目で見つめる幸田の耳元に唇を寄せた。

「何だ?そんな可愛い事を言って、犯されたいのか?」

「なっ!!」

この人は。

せっかくの頑張りも、ムードや色んなものも無駄じゃないか。

幸田が赤面し反論を口にするより早く、スタッフに呼ばれた三城が幸田の手の中からすり抜け離れて行ったのだった。


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