三城×幸田・お礼用SS
(三城になります)



晴れ渡った春の日。

プロポーズを受けて丁度一週間が経った週末、幸田は一人両親の墓の前で両手を合わせていた。

隣に三城は居らず、それどころか見渡す限り猫の子一匹見当たらない。

黒っぽいスーツに身を包んだ幸田は、こんなかしこまった恰好で此処に訪れるのは納骨の時以来だと、何処か照れくさい気持ちになった。

先週手向けた花を退け、新しく持参した花を生ける。

見慣れたはずの墓石が、何故だか遠くに感じられた。

「父さん、母さん、報告があります。」

神妙な面持ちで唇を開いた幸田は、けれど続きがなかなか続けられず、喉から出かかった言葉は声になる前に変な音を立て、開閉させるばかりの唇は乾いてしまう。

見つめ返す瞳がある訳でもなく、文句を言われる口がある訳でもない、ただの石だと言ってしまえばそれまでだというのに、どうにもサラリと言葉は出なかった。

一陣の風が吹きぬけ、鳥が鳴く。

どれほどの時間が経ったのか、ようやく再び口を開いた幸田は、言いながら逃げる様に瞼を閉じた。

「僕は、三城家の養子に入ります。」

思えば親不孝ばかりしていたのかも知れない。

女性を愛せなくて、子供を成せなくて、「幸田」の名を棄てた。

古い考えを持つ両親ではなかったけれど、それでももしも生きていたなら、と考えると一体何と言っただろうか。

「ごめん。・・・・・でも。でも、僕は今、すっごく幸せなんだ。」

そうだ、自分はこのうえなく幸せなんだ。

改めて口に乗せた言葉は、ストンと心の中心に落ち、しっくりと収まった。

瞼を開けた幸田は真っ直ぐに前を見据え、もう迷う事の無い澄み切った笑みを浮かべた。

後悔をしているわけじゃない。

誰にも、何も恥じている訳じゃない。

ごめんね。

ありがとう。

けれど、信じている。

「僕の幸せを願ってくれているって、信じていいよな?」

極普通の家庭だった。

理不尽に怒られた事もあるし、勝手な理由で甘やかされた事もある。

けれど両親に愛されていたという事は、大人になってからこそ理解が出来た。

理屈ではない感情が、胸を暖かく抱く。

「今度は春海さんと、お義父とお義母と一緒に来るから。」

小さく手を振った幸田は、軽やかに踵を返し墓標に背を向けた。


─────、桜の花は散りました。

けれど新しい花が何処かで咲いています。



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