三城×幸田・お礼用SS
(春海の誕生日・3)



夕方の職員室は閑散としている。

教師や生徒がチラホラと居るだけの職員室で、窓の外にクラブ活動の活気溢れる声を聞きながら幸田は自席にてノートにペンを走らせていた。

性格が表れたような、癖の無い綺麗な文字が紙面にサラサラと綴られる。

幸田だけが解るように書かれたそのノートは、今日の授業の進行状況や明日以降の予定を纏めているものだ。

一学年3クラス、授業の進み具合に大差を出さない為しっかりと把握しておく必要があった。

「・・・よし。3組は少し遅いけど明日にも取り戻せるな。」

書き込んだノートを眺めると、満足げに微笑む。

このペースだと、なかなか良い出足ではないだろうか。

まだ授業開始から数日で大きくズレが生じていてはこの先が思いやられるというのもだ。

「字も、綺麗に書けた。」

誰にも聞き取れない程小さな声で言うと、幸田は手にしていたボールペンを見つめ頬を緩めた。

ブラックのアクリルライトのボディにゴールドのグリップ。

一見して大量生産品ではないと見とれるそのペンは、今日降ろしたばかりの物だ。

少々身の丈に合っていない気もするのだが、「就職祝い」と言聞かせ自分自身に贈ったご褒美。

とはいえ、「就職祝い」などという理由が言い訳に過ぎない事などしっかりと解っている。

どうしてもこれが欲しかったのだ。

このボールペンの対になっている万年筆。

それは昨日三城に贈った物だった。

三城の誕生日に万年筆を贈ろうと決めたのは随分と前だったが、いざ購入するとなると妙な欲が出てしまった。

自分も欲しい。

万年筆なんて幸田は使わないし、書き味に特別拘る方でもない。

現にこないだまで使っていたのはコンビにで買った100円のペンだ。

だが、贈ろうと決めた万年筆の隣に並んでいる、良く似た形のこのボールペンから目が離せなくなってしまった。

とても綺麗で、上品で、自分はともかく三城にはとても似合うだろう。

三城がこの万年筆を使っている場面を想像し、幸田は「思わず」買ってしまったのだ。

「今頃春海さんも使ってくれてたりするかな。」

幸田がこのペンを持っている事を、たぶん三城は知らない。

そう思うと、なんだか悪戯をしているような気分にすらなった。

「今晩のおかずは何にしよう。」

幸田は小さく微笑を浮かべ、黒く光るボールペンを大切そうに胸ポケットにしまうとブリーフケース片手に立ち上がった。

三城と暮らす家に帰るために。



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