三城×幸田・お礼用S・S
(報告会・冬樹の場合)



四月某日。

秋人が経営するレストランの個室の前で冬樹はため息を吐いた。

約束の時間は数分過ぎている。

早くしないと特に母・沙耶子が怒るだろう、と思えど、中々一歩が踏み出せずに居た。

ここは秋人の所有するレストランの中でも最上級クラスのレストランである事は、顧問弁護士をしている身としてもちろん知っている。

開店祝いの際に一度だけ訪れた事はあるが、いくら弁護士といえど、そしてオーナー社長の兄といえど、おいそれと来れる価格設定ではない。

そんなレストランで家族一同の収集が掛かったのには十分な訳があった。

末弟・春海の───入籍である。

これを母は入籍と呼ぶので自分も習うが、それは決して「結婚」をさしてはいなかった。

そうだ、断じて違うのだ。

確かに春海は成績優秀で、だからといって破天荒な秋人とは違い、真面目に問題一つ起こさずに生きていると思っていたのに。

そりゃぁ、多少性格に難が・・・他者を思いやれない所などある事は知っていたがそれでも。

まさか連れて来た「嫁」が男だなんて。

初めて知った衝撃の新年から数ヶ月。

養子縁組なる「入籍」を決めたのが、なんと両親からの提案だと聞くからその驚きは並ではなかった。

世間体を考えろ、と怒鳴りつけたくもなったが、親に逆らってはいけない、という躾をされてきている。

諦めるしかない、と苦虫を噛んでいた冬樹に言葉をかけたのは、ビジネスの話し合い中の秋人だった。

「兄さんは、幸せですか?」

それに冬樹は残念ながら答える事が出来なかった。

結婚して数年。

妻も子供も居る。

仕事も順調。

だが、幸せかと聞かれれば、簡単に肯定の言葉を返せはしない。

「春海は、すごく幸せそうですよ?」

「・・・そうか。」

幸せに、なるなら。

それが苦労の中にあったとしても良いのだろう。

「諦めるしかないな。」

冬樹はフッと苦笑を漏らした。

仕方が無い。

兄弟同士いがみ合うなんてバカらしいだろう。

兄はそんな役割だと昔から決まっている。

『冬樹はお兄ちゃんなんだから、秋人と春海のお手本になってね。』

頑張って見本になれるような兄を目指したけれど、残念ながら弟二人は誰かを手本にするような心を持ち合わせてはいなかったようだ。

自由に生きる弟達を少し羨ましく思いながら、冬樹は豪奢で重い扉を押し開けた。

片手に祝いのグラスが入った紙袋を持って。



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