三城×幸田・お礼用SS
(二人の生活・1)



その問題が持ち上がったのは同居を始めて直ぐの事だった。


夕食を終え各自の時間を過ごしていた時である。

幸田がテレビを見ながらソファーで寛いでいると、自室から出てきた三城に一つの封筒を渡された。

「恭一、今月分の生活費だ」

「・・・へ?」

差し出されたので反射的に受け取ってしまったそれは、銀行のロゴが記入されたありふれた封筒でずっしりとした重みと厚みを手に感じた。

「何ですか、これ?」

座ったまま、ただでさえ長身の彼を見上げようとすればクンと首がなる。

「だから、生活費だと言っているだろ」

「生活費って・・・」

いっそ眉間に皺を寄せる三城に、幸田はすぐに言葉を返せなかった。

世間一般の「生活費」と言えば、家賃から食費まで全てを指すのかも知れないが、彼の言うそれも同じだとは思えない。

マンションがどうなっているかも知らないが、光熱費や固定費などは彼の口座から引き落とされるはずだ。

だとすれば残されたのは食費と日用雑費だけになるが、それだけだとすれば渡された封筒の中身は随分と多いように思える。

三城から視線を外し封筒の中を覗いてみると、厚みで想像していた通り多額の現金が入っていた。

何をどう計算すればこんな金額を渡そうと思ったのか、三城の考えなど想像もつかない。

「・・・。生活費って言っても実質は食費と雑費じゃないですか。それぐらい僕に出させてください。」

封筒の上を折ると、幸田はそれを三城に返そうと差し出した。

渡された金額に怖気づいた訳ではない。

前々から考えてはいたのだ。

二人の家だと言い共に生活を始めたというのに、住居の準備はもちろん家具や家電などの初期準備費は全て三城が捻出している。

それも半分出す、と言えれば良かったのだが、何せ三城が三城の生活基準で購入したそれらは一つ一つが幸田の考える価格設定と大きく異なっていたので、到底口には出来なかった。

だが、これからもずるずると三城に全てを任せていて良いとは思えない。

二人の生活の為に何かしたい、と思った幸田のたどり着いた考えだったのだが、三城はあからさまに眉間に皺を寄せ封筒を受け取ろうとはしなかった。

「それぐらい、だというのなら俺が出してもかまわないだろう。」

「そういう問題じゃなくて。」

「では何だと言うんだ。わざわざ家に入れようとしなくても、お前が稼いだものはお前が使えばいいだろ?」

「なっ・・」

いつも以上に高慢な三城の口調に、さすがの幸田も癇に障った。

元々幸田は男としてのプライドが低く、故に三城とも問題なく暮らしていられるのだろうが、今回ばかりは聞き流せない。

三城がどんなつもりでその言葉を発したのかは解らないが、幸田には己の収入など彼には不必要だと言われたとしか取れなかったのだ。

ムッとした感情を上手く隠す事も出来ず、棘のある口調になっていた。

「そりゃぁ、僕の給料なんて春海さんからしたら雀の涙かもしれませんけど」

「誰もそんな事を言っていないだろ。ただ俺が用意をすると言っているだけだ。何が不都合がある?」

「不都合とかじゃなくて。他のお金も全部春海さんが支払ってるじゃないですか。だからこれぐらい僕が」

対等でいたいと思っているのか、と問われればそれも疑問である。

知識や体格や、もちろん圧倒的に収入にも差があるが、それを羨ましいと思えど悔しいとは思わない。

三城に甘やかされている自覚はあるし、それを心地よいとも感じてしまっているが、全てにおいてこのままで良いのかは解らなかった。

自分は男であって女性ではない。

それを三城は正しく理解しているのだろうか。

「何を意地になっているんだ。落ち着け」

「意地になってなんていません。それなら春海さんだって」

「そういう言い方は止めろ」

「じゃぁ、何て言えばいいんですか?全部春海さんの言いなりにならなきゃいけないんですか?」

「恭一、いい加減にしろ」

「っ・・・」

怒鳴りつけるような大きな声で一括され、ようやく幸田の感情は収まった。

「どうしたんだ、お前らしくもない」

ため息交じりに呟いた三城はいっそ心配げで、怒っている風には見えず安心した。

自分でもおかしなほどの感情の高ぶりは感じていたが、どうにも止められなかったのだ。

「二人で一緒に」今となってはそれはとても幼稚なこだわりに思えてしまう。

気まずい沈黙を破ったのは、考えあぐねた末の幸田の一言だった。

「沙耶子さん・・・お義母さんに、相談しませんか?」

ふと脳裏を過ぎった正義感溢れる彼女ならば、この不毛な口論を収めてくれるのではないかと思った。

逆を言えば、二人だけではいつまでも収拾がつかないのではないかとすら感じたとも言える。

「お前が納得するなら、そうしよう」

押し殺したような声で呟いた三城は、踵を返すと固定電話の子機を取りに向かったのだった。





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