三城×幸田・お礼用SS
(恭一が外で飲まないようにと言われている訳・1)



最近の平均的な帰宅時間よりも数時間遅くはあったが、三城は上機嫌で自宅へ上がるエレベーターに乗っていた。

片手にはブリーフケース、反対側には細長い紙袋とビニール袋。

ずっしりと重い中身を思えば自然と頬が緩んだ。

「恭一は気に入るだろうか」

ククッと喉を鳴らす表情は慈愛から程遠いのであった。

**********

「ただいま」

大きな仕事が重なっている訳ではないが体感的な疲れが否めない週末の夜である。

深夜前にようやく帰宅をした三城は、リビングルームへ入るなりダイニングテーブルへ向かうと手にしていた紙袋とビニール袋をどさりと置いた。

連日自宅で夕食をとっている三城も今夜は元々帰りが遅くなると解っていたので外食で済ませて来たのだが、このまま眠る気分にはどうにもなれない。

アルコールでも飲まないとやってられない───、というのは単なる建前だ。

本心としては「幸田を構い」、ただそれだけだった。

「おかえりなさい。あれ?ワインですか?」

既にパジャマ姿の幸田は、裸足の足で三城の側へ駆け寄るとフワリと目を細めて微笑んで見せた。

その笑みを見ただけで日常の疲れなど殆ど消え去ってしまう。

彼が居るからこそ毎日気持ちをリセットし意欲的にビジネスに打ち込めるのだが、何度それを伝えても幸田にはきちんと伝わらないようだ。

「あぁ。気に入りの店に立ち寄ったら良いフルーツワインが入っていると言われたのでな。」

紙袋から丁寧な手つきで鮮やかなオレンジ色の液体が満たされたワインボトルを取り出すとラベルが見えるように幸田へ差し出した。

予想の範囲内なのだが、幸田はラベルをチラリと見たが興味なさげに三城に視線を戻すと曖昧にニコリと微笑んだ。

特別ワイン好き、という訳でもない幸田にとってみれば英字で書かれたラベルになど価値を感じないのだろう。

「綺麗な色ですね。オレンジですか?」

「マンゴーだ。ドイツ産のスパークリングで、これはあまり日本に入って来ないらしい。」

「へぇ、マンゴーなんて春海さんにしては珍しいですね。」

「そうか?」

そんな事はないだろう、とばかりに言ったものの何気なく視線を逸らした三城は、ネクタイを外すふりをしながら僅かに幸田に背を向けた。

ポーカーフェイスに長けているつもりだし、幸田も嘘を見抜く事が得意だとは思い難い。

とはいえ己の計画を思えばあまり顔を合わせてはいたくなかった。

幸田の言う通り、このワインは三城の趣味ではない。

三城自身としてはアルコールは辛口を好み、ワインならば赤が好きだ。

このような見るからに甘そうで「フルーツの味わいそのもの」などと謳われる物などそもそも手にも取らないだろう。

一方幸田はと言えば、ビールと酎ハイやカクテルなど飲み口の軽い物を好んでいる。

好みが極端に違うので普段は三城の趣味で選ぶ事が多いのだが、このワインは幸田の事だけを考え口当たりの滑らかなものを選択したのだ。

飲むのは好きらしいがなにせ幸田は三城ほどアルコールに強くはなく、晩酌は翌日の事も配慮し一杯二杯口にする程度だった。

ビールならばもっと飲むかとも思ったが、今夜は確実に酔って貰わなければ困る。

「明日はお互い休みだからゆっくり飲もうと思ってな。アテも買ってきている」

「あ、本当だ。」

三城が視線でビニール袋を指すと、察した幸田がガサガサとビニール袋を漁り嬉々とした声を上げた。

ワインショップで同じく購入してきたそれはオードブル類から乾き物まで数種類のつまみが入っている。

こちらもまた悟られないようにも幸田の好みを前面に押し出した選択だった。

「沢山ありますね。春海さん、着替えてきてください。僕はその間にコレを盛り付けておきます。」

「あぁ、そうしてくれるか?」

嬉しげに声を弾ませる幸田を横目で見ながら、三城は彼の目を見れないまま着替えをする為に自室へと向かったのだった。


+目次+