ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(見舞い)



ヤクザは情報が命だと言うが、それは敵味方に関係なくである。

遠藤が日課である見舞いへ訪れると、ベッドのリクライニングに背を預けていた中里がニヤニヤと目を細め笑った。

ベッドテーブルにはノートパソコンが置かれ起動はしているようだが、中里の興味はそちらへ向いていない。

「お前、可愛い奴が出来たらしいな」

前置きもなく言う中里に、遠藤は唇を固く結んだ。

いつかは突付かれると思っていたが、予想以上に早い。

入院生活に飽きているのか、そんなにも遠藤の行動が珍しかったのかは定かではないが、中里の言及に答えない訳にはいかない。

「・・・誰の事をおっしゃっているのか知りませんが、心当たりはありません」

「そうかそうか。だったら、あのエレベーターホールに若い衆を立たせても問題ねぇな」

「・・・どうぞ、そうなさいたければ」

「ハッ、意地を張るな」

中里は、「全て解っている」とばかりに笑って見せた。

彼が誰からどれ程の情報を得ているのかは不明だが、遠藤が舎弟に指示をして実を調べさせた時点で遅かれ早かれこうなる事はわかりきっていた。

中里の手足として動くのは遠藤だけではないということだ。

口止めをしていた訳でもないので誰が情報を流していても不思議ではなく、この分だとエレベーターでの様子が覗かれているかも可能性もある。

「意地などではありません。アレは俺にとって何でもねぇ存在って事です」

「何でもねぇ餓鬼に、お前が腕を預けるってか?」

「・・・・・」

腕を掴まれていては身動きが自由に利かず、命を晒す事になる。

それに加え、人に掴まれるというのは余り気分の良い物でもなかった為、遠藤は過去に囲った女にも相手からは触れさせなかった。

腕を組まれれば途端に機嫌が悪くなる事を中里はよく知っている。

「お前も『愛』なんて知らねぇ口だろ?やっとそれも良いもんだって解ったか?」

同じく「『愛』なんて知らない口」だったはずの中里が高見から言ってのけた。

彼が今ぞっこんの男が居る事は周知の事実だ。

遠藤がその相手に会った事は一度だけで、中里があからさまに惚気る事はなかったが、彼が全力でものにしようとしているのは聞かずとも明らかだ。

毎日夕食や衣類を運ばせているだけでもどれ程の金銭と人手が必要か。

「・・・申し訳ありませんが、未だ解らねぇままです」

「そうか。そりゃぁ解れって解るもんでもねぇだろうがな。だがな、守るべきモンがあるってのもいいもんだぞ」

「守るべきモノ・・・ですか」

それなら遠藤にもある。

その対称は一人の餓鬼ではなく、霧島組であり、目の前の男だ。

「俺にも守るもんはあります。今はそれを守るだけで精一杯で、他に何かとは考えられません」

「それをお前が守れたってか?だったら何故俺がここに居る?」

嫌味でも何でもなく、ただの事実だ。

何と言い訳しようとも遠藤の失態は消えず、今生きていられるだけでも感謝しなくてはならない。

口を噤む遠藤に、中里は片手を振った。

「蒸し返すつもりじゃねぇ。ただ、組だ極道だと意固地になるなって事だ」

「意固地になってるつもりは」

ないのだと言い張る事自体が「意固地」なのかもしれない。

だが、何と言われようが本心なのだから、それを言い合っても堂々巡りにしかならないだろう。

中里は呆れたとばかりに一つ大きなため息を吐くと、急に真面目な表情になり鋭い瞳を遠藤に向けた。

「何故、あの子供の事を俺が知っているか解るか?その上、俺は多分お前以上にあの子供の情報を持ってる。好きな物や欲しい物もだ。・・・・今後の事を考えておけよ」

敵を潰すには関係のない外壁から攻撃する、という方法もあるという事だ。

外科医・湯沢には本人の知らない所で護衛が数人付けられていた。

「はい。考えるまでもなく」

「だから、考えろつってんだろ!」

人の話を聞いていたのか、と怒声を上げる中里に頭を下げ、言葉を受け流した遠藤は何食わぬ顔で本日の報告へ入る。

胸に宿ったもやもやとした感情は、実と会っていなければ依然巣くったままなのであった。


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