三城×幸田・お礼用S・S
(湯飲みにまつわる)



新年度が始まり暫くが経った日曜日である。

久しぶりにゆっくりとした休日になったこの日、デートと買い物を兼ねて三城と幸田はデパートへ来ていた。

気に入りの店が何店か入っているという三城に対し、幸田はデパートで買い物をする習慣がそもそもない。

ただ黙って三城の後ろについて歩いていただけなのだが、気が付くと「お前の分だ」と言われた紙袋が数個彼の手の中にあった。

衣類か何かなのだろうが、まさか自分の物だと思わなかったので彼が何を見ていたのか解らないまま、選択から購入そして荷物持ちまで全て三城一人でおこなっていた。

お礼を言えど「勝手にした事だ」と受け流されてしまい、嬉しいという気持ちに偽りはないが、こうも頻繁に様々な物を与えられては感謝よりも恐縮が勝るのが幸田だ。

いつか何かの形でお礼がしたい、と気持ちばかりあるのだが、実現しないままである。

三城はようやく全ての目当ての店を見終わったらしく、二人は人気の無いエレベーター前に来ていた。

「恭一は他に見たい場所は無いか?」

手ぶらの幸田に対し大荷物を手にしている三城は、けれどそれを感じさせない笑みを浮かべた。

中身は不明ながらそれだけの紙袋を持っていれば重いだろうに、彼は幸田に一つとして持たせようとはしない。

それどころか幸田が持つと言っても断られる始末である。

「うーん・・・あ、食器売り場に行きたいです。」

「食器売り場か。それなら上の生活雑貨フロアだな。何を買うんだ?家で足りない物でもあったか?」

「いえ、家じゃなくて。学校で使う湯飲みが欲しいんです」

学校には以前の職場で使っていたマグカップを持っていっており、コーヒーはもちろん昼食時の緑茶もそれで済ませていた。

予備校時代は職員室で食事をする場面が殆ど無かったので考えもしなかったし、物の形には余りこだわる方ではないのでマグカップでお茶を飲んでも一向に構わないと思っていたのだが、周囲の教師を見ていると欲しくなってしまったのだ。

日本茶は湯飲みで飲む方が何倍も美味しく見えてしまう。

とはいえ、湯飲みの形をしていればどんな物でも良いのでわざわざデパートで買う必要も無と(自らを庶民と称する)幸田は思うのだが、何事もタイミングである。

エレベーターの上行きのボタンを押したものの、ゆっくりと一階毎に停止している箱は中々二人を迎えに来てはくれそうになかった。

「そういえば、春海さんはマイカップとか持って行っているんですか?」

「あぁ。俺もコーヒーカップは会社に置いている。恭一の弁当がある日は昼食に茶を出してもらうが、その時は社にある物で出て来るな」

「へぇ・・・」

三城ともなれば、コーヒーやお茶は「淹れる」物ではなく「出てくる」物のようだ。

そんな些細な事でつい関心してしまう。

「そうだ。春海さん専用の湯飲みも無いなら、お揃いで買っても良いですか?」

彼は普段、昼食は安易な物で済ませていると聞いた事があった為、幸田は自分の弁当を作るついでという名目で三城の分も作るようになっていた。

最初は「たまに」のつもりだったのだが、三城が喜んでくれると知ればすぐに「ほぼ毎日」へと回数は増えている。

弁当箱は二人とも持っていなかったが、幸田が一式を買い揃えた数日後に三城の物を用意した為二人は別々の物を使っていた。

買ったばかりの物を改めて買いなおそうとまでは考えないが、幸田は「お揃い」という響きが好きだ。

思春期の頃から今まで、こんなにも堂々とした付き合いをした事が無かった反動からかもしれない。

「もちろん構わない。恭一が選んでくれるんだろ?」

「あ、はい。選ぶっていっても僕、春海さんほどセンスありませんけど」

「良いんだ。問題はそこじゃない」

「そこ?」

「恭一が選んでくれる、それだけで良いという事だ」

甘い声を潜めながら三城は腕を幸田の腰に回しグイッと引き寄せた。

───チンッ

それと同時に高らかな音が鳴り、エレベーターの扉はスルスルと開いた。

「っ!」

誰かに見られてしまう。

男同士だからか、単にいちゃついている所を見られるのが恥ずかしいのか、幸田は瞬時に赤面してしまったが、幸いそのエレベーターには誰も乗ってはおらず、三城にだけ意味深にクスリと笑われたのだった。



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