三城×幸田・お礼用S・S
(沙耶子の思いつき)



GWに入り直ぐの日曜日である。

経営する店舗はもちろん全て営業をしているが、オーナーである秋人は悠々と休日を取っていた。

今年のGWは8日間。

その内何日かは予定が入っているものの、大掛かりな用事は無い。

ならばたまにはゆっくり実家に帰ろうと思ったのは30代半ばの独身男の気まぐれだ。

秋人は経営するカフェから人気のケーキを数点ピックアップするとテイクアウトのラッピングを頼んだのだった。



**************

三城家の男共は基本的に仕事が好きなのだろう。

たとえ大型連休といえど、父も兄も働いているらしい。

見慣れた実家のリビングで、秋人は自慢のケーキを振る舞いながら沙耶子の淹れた紅茶を飲んでいた。

「頻繁に顔を見せに来てくれるのなんて貴方ぐらいね。春海はともかく以前は冬樹達家族が来てくれていたけど、今はさっぱりよ」

季節のフルーツをふんだんに使用したタルトを突付きながら、沙耶子はため息混じりに呟いた。

嫁姑問題の深刻さは遥か昔より語り継がれている話である。

沙耶子と冬樹の嫁も例外ではなくあまり仲が良く無かった為、子供が小さい頃はご機嫌伺いに孫の顔を見せに来ていた嫁も、今となっては音沙汰は皆無だ。

これでも冬樹の新婚当初好意的に接しようとしていた沙耶子も、嫁が敵意むき出しならばその意思も早々に折れるというものである。

「その点、恭一さんは良いわね。綺麗だし当たりは柔らかいし愛想は良いし。何よりお仕事もしていて忙しいだろうに電話やメールをくれるのよ」

両親が他界して久しい幸田は三城の両親を本当の親のように慕ってくれているらしく、その上料理の質問をして来たり何かと頼って来られては可愛く思えて当然だろう。

秋人が沙耶子より聞かされる恭一の話は、そんな話題で溢れていた。

「性別は気にならないのですか?」

「今更何を言っているの。あんなに可愛いお嫁さんを私は知らないわ」

沙耶子の口調は刺々しいものだ。

元敏腕弁護士の沙耶子が熱弁を繰り広げれば、それがどんな内容であれ彼女の意図する効果は最大に発揮される。

この場合は「嫌味」だ。

「そういえば、春海達は昨日からアメリカらしいですね」

「そうね、ニュージャージーで挙式なんて素敵じゃなぁい。恭一さんはどんな格好をするのかしら」

「さぁ・・・春海の事ですから、ドレスを着せるかもしれませんね」

「あら。でも、女性の格好をさせるなら日本で挙式をすれば良いんじゃないかしら?折角大手を振って同性結婚式が出来るのだからきっと二人ともタキシードよ」

そう思うなら初めから聞くなと、とは寸前で飲み込んだ。

そんな事を口にすれば何倍の答弁で返されるか解ったものではない。

「・・・。お揃いの物を着るのでしょうか」

「さぁ・・ウエディングドレスならカラーの物もあるのだから、タキシードも恭一さんはカラーの物にしたかもしれないわね」

「カラー・・・ピンクやブルーの、という事ですか?」

まさか二昔前のお笑い芸人のような原色のタキシードという事もあるまい。

眉間を寄せる秋人に沙耶子は乙女のように胸の前で両手を組んだ。

「そうよ、パステルカラーのタキシードなんて素敵ね。きっと恭一さんはとても似合うわ」

それには秋人も無意識に頷いていた。

確かに、類稀なる美人である春海の嫁ならば着こなしてしまうだろう。

それこそウエディングドレスにしても、似合ってしまいそうな雰囲気がある。

「見てみたいわねぇ」

「タキシード姿をですか?」

「と、いうよりも晴れ姿・・・いえ、挙式そのものかしら」

「春海もどんな顔をするか見物でしょうね」

いつもぶっちょう面か営業スマイルがデフォルトだった春海が、幸せに溢れたもしくは感動に涙する姿を思えば笑いを堪えるのがやっとだろう。

そんな姿を見られたくはないが故に、「海外だから」という大儀名文を盾に春海は家族を挙式に呼ばなかったのではないかと考えられる。

「そうね。・・・・それに恭一さんはお色直しをするかもしれないわね」

至極真面目な顔で頷いて見せる沙耶子は、なんだかんだと言って恭一のドレス姿を期待しているようだ。

「そうですね。帰国したら写真でも見せに来るでしょう」

春海が自ら来るとは思えないが、あの義理硬そうな幸田は土産と写真を持って来るだろうとは容易に想像出来る。

実家は確実で、もしかすると秋人の元へも訪れるやもしれない。

「そうね、でも・・・。えぇ、そうだわ、そうしましょう。決めたわ、私、やっぱり行くわ」

「は?え?」

決意したような表情を浮かべ、沙耶子はソファーから立ち上がり壁掛けの時計とその隣のカレンダーを見やった。

行くとは何処へ、とは聞けなかった。

聞かずとも解るのだが、あまりの突然さに聞かされた秋人が動揺してしまう。

「今から出発すれば挙式の日には間に合うでしょう。GWの真っ只中だけれどファーストクラスなら飛行機も空いているだろうし」

「ですが、そんないきなり・・・父さんはなんて言うか」

「あら?母親が息子達の結婚式に出席したいと思って何がいけないの?秋人は詳しい場所を聞いているのでしょ?教えなさい」

「それは構いませんが・・・」

「それにお父さんはお仕事よ。帰ってからお伺いを立てていたのでは明日になってしまうから、メモを残して行くけれど大丈夫でしょう」

「・・・・」

メモを残して出て行くなど、「ちょっと近くのスーパーに」とは訳が違う。

「さ、そうと決まれば準備をしないと。秋人空港まで送りなさいね?」

けれど、ニッコリ恐ろしいまでに美しく微笑む母・沙耶子に意見が言えるほど、三城家において秋人の立場は強くはないのであった。



+目次+