三城×幸田・お礼用SS
(カリフォルニアロール)



正午過ぎにようやくベッドから抜け出したかと思えば、単にソファーへ場所を移動させただけでやっている事に大差は無い。

新婚旅行と名づけた甘ったるい旅行の中日である。

とりえずと着た部屋着姿で、三城は幸田を後ろから抱きしめる格好でソファーに腰を沈めていた。

顎先に当たる幸田の髪がくすぐったく心地いい。

「恭一、今日は何処へ行きたい?」

「んー。っていっても僕よく知らないしなぁ。何か美味しいものが食べたい」

「旨い物か。そろそろ日本食も良いな。家庭料理屋か料亭か・・・・」

「お寿司が良いな。せっかくだから本場のカリフォルニアロールが食べたい」

「・・・それは日本食と言うのか?それに微妙に本場でもないと思うが?」

「だって、お寿司屋さんに行ったらカリフォルニアロールと他のお寿司もあるでしょ?だったら日本食じゃない?」

「俺はお前が良かったら何でも良いがな。それなら何処が良いかな・・・」

幸田が良いなら何でも構わないと心から思う。

ニコニコといかにも機嫌良さそうに首だけで振り返る幸田に、三城は頬が緩んだ。

知っている数件の寿司屋を思い浮かべ、幸田リクエストのカリフォルニアロールの一番旨そうな店を考える。

とはいえ、三城自身はそんな寿司とも呼べない邪道な物を食した事がない。

「あそこなら置いているだろうし、職人もきちんと日本人だし・・・」

「美味しい?」

「あぁ。日本で食べるのと変らない───」

三城の言葉に被さるように、携帯電話の着信音が鳴り響いた。

「・・・・」

どこの誰かは知らないが、この幸せな時間を邪魔しないでほしい。

無視してしまおうかとも考えたが、振り返った幸田の瞳が無言で「何故出ないのか」と訴えている。

小さく開閉させられている唇からその言葉が出るのは直ぐだろう。

仕方が無い。

ため息を悟られないよう飲み込み、幸田を抱きしめたままテーブルに置かれていた携帯を手にした。

『・・・はい』

『レイズだ。ハルミ、聞きたい事がある』

誰だと思えば、自分達とは入れ違いに現在来日中のレイズ・クラインではないか。

ローランと共にプライベートでも交流があるが、彼にしては珍しい思いつめたかのような声音だ。

『何ですか?ビジネスの事なら私ではなくそこに居る北原に聞いてください。彼は私と同等の理解を・・・』

『そうではない。ナオヤについてなんだ。彼はハルミに関心があるようなのだが、君はどうなのだろうか?』

幸田を抱きしめている今、何という質問だ。

今度はため息を堪えきれず、盛大に吐き出すと無意識に腕に込める力が強くなった。

『北原が私をどう思っているかは知りませんが、私はビジネスでのパートナーとしか考えていません』

『本当か?今もか?』

『当たり前です。北原となど何もありませんよ』

先日のパーティーにてローランが何か匂わす事を言っていたがこの事だったのか。

北原は元よりレイズからも色恋の話の一つも聞いた事がなかったので驚きはするが、それだけだ。

『狙うのは勝手ですが、ビジネスに支障の無い程度にお願いします』

『・・・解っている。休暇中にすまなかった』

『いえ。失礼します』

通話を終えた三城は、粗暴な仕草で閉じた携帯をテーブルへと置いた。

たった今まで携帯を握り締めていた手は、癒しを求めるかのように幸田の指を絡め取る。

「お仕事の話?」

「いや、単なる恋愛相談だ」

「恋愛相談!?春海さんに?」

あまりの幸田の驚きっぷりに思わず苦笑が漏れる。

三城自身にしても、全く持って自分とは不釣合いな相談事であると思う。

もっとも、あれは相談というカテゴリーにも入らない「確認」だろうが。

まさか自分が北原と「何か」あるなど、考えた事もない。

確かに北原は男にしては美人の部類に入るだろうが好みではない。

それ以前に男の顔で好ましいと思ったなど幸田をおいて他になく、容姿以外を見てもビジネスライフには必要不可欠だとは思うがプライベートであの神経質さを出されると疲れそうだ。

「恋に仕事に頑張る男が、見当違いな質問をぶつけて来ただけだ」

「見当違い?」

「あぁ。そんな事より、カリフォルニアロール食いにいくか。といっても今の時間では中途半端だな」

「じゃぁ、ちょっとブラブラしたりしようよ。字は読めないけど、こっちの参考書とかちょっと興味あって」

「なら本屋だな。準備するか」

「うん、着替えてくる」

さっさと三城の腕を解いた幸田は足取り軽くスーツケースを置いてある寝室へと消えていった。

幸田が嬉しげだとそれで満足とはいえ、こうまでもあっさりとされてしまうと寂しいものもある。

「カリフォルニアロールな・・・」

そういえばいつかの出張の時に今から行こうと考えている寿司屋でそれを北原が食べていた気がする、とふと脳裏を過ぎった。

彼は表情豊かなタイプではないものの不味そうな顔はしていなかったと思う。

同じ物を、幸田はどのような表情で食べるのだろうか。

「北原が悪い訳ではない。恭一が良過ぎるだけだ」

自然と視線が携帯電話に向けられた呟きを、三城は誰にも知られず笑みを漏らしてしまったのだった。



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