三城×幸田・お礼用SS
(赤い車の所有者・前編)



大型連休明けの月曜日。

学生よろしく、原田理奈【はらだ・りな】と塚本由利子【つかもと・ゆりこ】は仲良く登校───出勤していた。

三十代半ばの女教師二人は、始業式と職員会議もそこそこに仕事が終わる本日とばかりに街へ繰り出す予定である。

「あーぁ。GWも特に何にも無かったなぁ」

「良くも悪くも?」

「ナイナイ。GWなんて、何処に行ってもカップルか家族連ればっかりでしょ。ずっと引きこもり」

「あ、それで今日のお誘いが掛かった、って訳ですか」

「そーいう事」

由利子に告げた通りGWはコンビニ程度しか出かけなかったという寂しいもので、ならばと午前中勤務なだけの今日を選んだのだ。

ファッションも髪型も、遊びに行く事を前提に選んだものである。

流行のアイテムを取り入れつつ慢性的にならないように。

一応「教師」である事を頭にいれていたが、けれど少々派手になってしまった服装はお局女性職員が居ない私立高校だからこそ許される範囲ではないだろうか。

「由利子はどうだった?あ、その靴新しくない?」

「気づいた?まぁね、一日くらい出かけないとな、と思って一人寂しくショッピングして来た訳よ。だけど結果はさっき理奈が言った通り」

「カップルと家族連れの気に当てられたのか」

「正解。引き篭もりしてたのも大正解、ってとこよ」

彼氏も居ないフリーの二人は、お互いぱっとしない休暇だったようである。

今日の誘いを掛けたのは昨晩であったが、見れば由利子も理奈に負けない程気合の入ったファッションで、考える事も似ているらしい。

会話を尊重しつつも生徒とすれ違えば挨拶を返し、その生徒達が校門に吸い込まれてゆくのを横目に、二人は教職員用の裏口へ回った。

「そいやさぁ、今日行きたいイタリアンのお店あるのよ」

「いいねぇ、イタリアン好きよ。どこ情報?」

「それが、雑誌の・・・・・・」

饒舌に話していた理奈の言葉が、ある物を目に急に止められた。

裏口から校舎までの間。

コンクリートで整えられた駐車スペースの中に、見覚えの無いそしてやたらと目を惹く車が止められていたのである。

「何?」

「あんな車、うちの先生乗ってたっけ?」

「・・・いやぁ、初めて見るよ」

「だよね」

理奈の指差した先を見た由利子も、怪訝そうな表情を浮かべた。

来客用ではなく教職員用の駐車スペースに停められていた真っ赤な車。

太陽の光を受けて美しく輝くその車は、初めてお目に掛かると同時にそれ以上の驚きがあった。

「これプジョーじゃない。New207」

「由利子、車に詳しいの?私はこのライオンっぽいマークとそれが外車だって事くらいしか解らないけど」

「ちょっとだけね。ほら、男の人って車好きだから、婚活のポイントとして」

「はいはい」

彼女が婚活をしているなど聞いたことはない。

彼氏は欲しいがそれと結婚は別だ、と言っていたのはつい先日。

冗談めかして笑う様子から、実際のところは大昔の彼氏か何かが車好きだったのではないだろうか。

「アラフォーも辛いのよ」

「待って・・・せめて後一年はアラサーと言わせて・・・ってそんな事はどうでもいいんだけど。それよりこれ、誰の車だろうね」

「さぁ。ここは誰のスペースでもなかったから、今まで車通勤じゃなかった人でしょうね」

「うーん、大半が電車通勤だからそれだけじゃ解らないねぇ」

「理科の前橋先生とか車好きって聞いた事あるけど」

「あぁ、40代後半・独身。あの人ならある程度お金持ってるかもね」

「そうね、だってこの車、オプションだってかなり加えられてるわよ」

「へぇ・・・・」

無遠慮に車内を覗き込んでも、真新しいそこからは誰の所有物であるかのヒントは見当たらなかったけれど、車に詳しくない理奈でも理解出来る豪華さであった。

シートは革張り、ダッシュボードも見慣れたプラスティックのような素材ではなく、オーディオ機器もカーナビも価値はわからないが洒落ているという事だけは見て取れる。

「後で誰か先生に聞いてみようか。上田先生とか無駄にくだらない情報持っていそうだし」

「そうね、ここで喋ってても解らないだろうし、ダラダラしてると始業式はじまっちゃう」

「えっもうそんな時間?・・・・危ない危ない」

慌しい足取りで校舎に入って行った二人は、けれど結局職員室に到着しても、それどころか始業式が行われる体育館に入るまで、コソコソとかの車の所有者について憶測を話し合っていたのだった。



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