ストーカー編・14



直後の授業に宍戸はきちんと出席をしていたし、休み時間になっても居なくなる事もなかった。

週が変わり気分も変わったのか、それとも今朝の件が影響しているのか。

教材を纏め教室を後にする準備を整えた幸田にたまたま目が合った宍戸がニッと笑って見せたので、そう言えばと思い問い正してやる事にした。

「宍戸、そういえば、先週は何で毎度のように授業の後居なくなっていたんだ?・・・それがあったから疑ってしまったのもあったんだぞ」

宍戸の机の前に行くと、ワザとらしいしかめっ面と共に声を潜める。

あまり疑惑の件を掘り起こしたくはなかったが仕方が無い。

せめて周囲に聞えないようにと顔を近づけると、宍戸は「あっ」と呟き赤面を浮かべた。

「いや・・・えっと。あの、ちょっと気まずかっただけ。ほら、俺が幸田先生に変な事言ったのは本当だし」

「それだけか?」

「うん。まさか幸田先生がそこまで俺の事見てくれてたなんて思わなかったけど。気づいてないと思ってた」

「なんだよ。ま、一応な」

確かに写真の件がなければ気がついていたかは微妙ではあるが、幸田は苦笑し受け流した。

「それって結構嬉しいな。あ・・・それから、こないだはあんな事言ってごめんね。あの写真さ、もう消去したから」

「・・・宍戸」

照れくさそうにしながらもカラリと笑う宍戸に、幸田の胸にも暖かいものが流れる。

またこうして宍戸と普通に話せるようになって良かった。

こんな事ならもっと早い段階で、問いただすのではなく質問をすれば良かったな、と改めて反省をした。

そんなこんなで、写真を送りつけて来た犯人が宍戸では無いと知れ、三城が警察に行くというのを止める理由が無くなっている。

加えて、犯人が宍戸で無いと考えると、途端にポケットに納めた写真が薄ら寒くすら感じていた。

何処の誰が何の為に、こんな趣味の悪い事をしているのだ。

やはり三城や宍戸も言っていたようにこれはストーカーなる人物の仕業なのだろうか。

ただの悪戯で済ませるには、その理由をもはや思いつけない。

こんな面倒な真似をさせてしまえる程恨まれてしまう事をした記憶が過去に遡っても思いつけなかった。

とはいえ、仮にこれを誰とも知らぬストーカーの仕業だとしても、たった4回封筒を送りつけられて来たという事実は変わらず、警察に行くには早急に感じられる。

この程度の被害では警察は動いてくれないだろうと聡明な三城が解らない筈がない。

それならばいっそ弁護士である義父や義兄に相談した方が───とまで考え、そちらの方が余程恥さらしだと思い改めた。

どちらにせよ、もう少し様子を見るべきだ。

そうは思えど、先日の怒号を考える限り三城がその意見を受け入れるとも思い難い。

どうしたものか。

真犯人に怯える傍ら、今後の三城にも不安を覚えているうちに幸田は放課後を迎えていた。

担任を持っておらず、一応勤めている部活顧問も名前だけに近い状態なので今日は出る必要は無い。

先週末頑張ったお陰で今しなければならない仕事も無く、帰る他に選択肢はなかった。

こんな時、普段ならば何も思わず帰宅をするし、ゆっくりと寄り道でもするのが常套だ。

けれど今日は到底そんな気分になど成れず、職員専用駐車場に停められた愛車に乗り込んだ幸田は眉を潜めていた。

写真の送り主が不明となった今、気づかないうちにカメラのレンズを向けられているというのは怖いし気持ち悪い。

幸田が一人きりだと思っている時も見張られていて、みっともない場面を見られているのかも知れない、と思えばそれも嫌だ。

その為このまま車から降りる事なく自宅まで帰りたい。

金曜に買い込んだ食材の殆どを土日で使ってしまっていたが、けれど今日の夕食と明日の弁当くらいならば残り物でなんとかやり過ごせるだろう。

質素になってしまうが、そこは三城に我慢して貰うしかない。

もはや日課となっているスーパーへの寄り道をしないと決意し、幸田はハンドルを握るとアクセルをゆっくりと踏んだ。

あの封筒の中の写真を見たのは初めの一回と三城から預かった数枚だけで、それ以外がどのようなアングルで撮られているかは知らない。

思えば、何処に居るシーンが多いのかという事すら気にしても居らず、閉鎖的な学校から出た途端、そこら中から見張られているような気分になっていた。

車の中も外から丸見えだから撮影しようと思えば可能だ。

もしかすると近くを平行して走っている車に犯人が居るかもしれない。

静まり返った車内で一人そんな事ばかりが脳裏を駆け巡り、信号待ちすら長時間に感じながらも最短距離で自宅マンションを目指した。

「やっと、着いた・・・今日はやけに遠く感じたな・・・・」

マンションの地下駐車場へ降りてゆき、蛍光灯の明かりが煌々と灯る中を徐行する。

高級車がこれでもかと並ぶのを見慣れた光景だと流し、隣りが空いている所定のスペースに愛車を収めようやく一息を吐く事が出来た。

どっと気疲れをしたが、後はエレベーターに乗るだけだ。

今日は郵便物を取りに行くのも止めよう。

あの封筒が届いているか気になりもするがうろうろはしたくない、と幸田は深呼吸を一度吐き車から降りた。

助手席に置いてあったバッグを片手にたいした距離も無いエレベーターに向かいかけた、その時。

「恭一さん、危ないっ!」

「・・・・へ?」

遠くから突然大声で名を呼ばれたので反射的にそちらを向く。

聞きなれない声で一瞬誰であるか解らなかったが顔を見れば一目瞭然、正月に巻き込まれた事件で世話になった三城の友人・室町が血相を変えて走って来て居た。

何故彼が此処に居るのだ、一体そんなに慌てて何があったのだ、と呆けて考えた幸田は何気なく室町が向かっている方向、己の背後を振り返った。

「っ・・・・」

そこには、今にも手が届きそうな距離に見も知らぬ男が───ナイフを片手に立っていたのである。



 
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