ストーカー編・3



訪れたレストランはやはり旨かったと、満足げな面持ちを湛え幸田は三城と並んで歩いていた。

来た時は降っていた雨も、今はすっかり止んでいる。

レストランに駐車場はなかったので行きは雨の中傘を差して近くのコインパーキングから小走りに店まで急いだけれど、雨さえ止んでしまえばその道のりも散歩のようで楽しい。

「春海さん、美味しかった」

「そうか。それは良かった」

「また来たいな。他にも気になる料理が沢山あったから」

創作料理というだけあり、物珍しい料理がメニューに並んでいた。

中には驚く取り合わせの物もあったけれど、今日食べた物の旨さから考えると、それも決して冒険ではないかも知れない。

「あぁ、覚えておくよ」

予想通りアルコールを摂取していた三城は上機嫌に幸田との距離を詰めた。

気に入りの銘柄のワインのハーフボトルをあっという間に空けていたが、三城がその程度で酔わないと良く知っている。

その為、外だというのにいつも以上にスキンシップを求めてくるのは決して酔いからではなないのだろう。

きっと久しぶりのデートという雰囲気に気分が盛り上がっているのではないか、と分析すれば、幸田も三城の腕にそっと寄り添った。

ただ腕と腕が触れただけだというのに、とてもドキドキしてしまう。

アルコールを飲んだ訳でもないのに赤らむ頬を夜の闇に隠し、僅かに俯いた。

毎日の忙しい日常に追われていたけれど、いつまでもこうして恋人同士で居たい。

いくら養子縁組をして「夫婦」同然となったとはいえ、それはそれこれはこれである。

初々しい気持ちを持ち続けるというのは何事においても難しく、そして大切な事なのだと、憧れ続けた職業に転職したばかりの幸田は思うのだ。

「春海さん、これからどうする?春海さんさえ良かったらBarとか・・・」

「Barか・・・。魅力的な場所だが、行っても恭一は飲めないだろ」

やはりタクシーで来させば良かったか・・・などと呟いている三城に幸田は首を振る。

「僕は大丈夫。前に春海さんが注文してくれたノンアルコールカクテルも美味しかったし、そういうのがあるお店なら全然」

「そうか・・・・恭一がそう言ってくれるなら、付き合ってもらうか」

「うん」

自宅で一緒に飲むのも良いかと考えもしたが、久しぶりのデートとありまだそれを続けたかった。

それに、三城と付き合うまでは自宅で飲酒をする習慣すらなかった幸田にとって、「飲む」よりも重要な事は沢山ある。

何よりも、三城が喜んでくれるなら本望だ。

「そうだな、どこにするか。ノンアルコールに強い店なら・・・」

三城が店名を告げる前に、二人は利用したコインパーキングに到着してしまった。

有名チェーンのパーキングは人気のようで、来た時も一つ空きスペースがあっただけだが、今も車種を変えながら全てが埋まっている。

「恭一は車行ってろ」

「うん」

奥に設置されている自動支払機に向かう三城と離れ愛車へ足を向ける。

思えばこの車の助手席に乗ったのは今日が初めてだ。

それに、愛車の運転席にしても三城の車の助手席にしても左側にある為、彼の右側に座るというのも初めてでとても不思議な気分だった。

こんな機会がまたあれば良いな、と感じたが、だが今日これからは幸田がドライバーチェンジだ。

外で待つ理由もないだろうと車に乗り込む為、運転席のドアに手を掛けた。

「・・・あれ?」

キーレスの為、近づいてノブを引けば扉は開くはずだというのに、今はスカスカとするばかりである。

何故開かないのだ、と眉を寄せ思い返せば、今自分は鍵を持っていないのだとすぐに思い当たった。

来る時は三城の運転だった為、彼に鍵を渡していたのだ。

ならば開くはずもない。

「あ・・・」

そこまでは思い出したのだが、その車のキーを返してもらったか否かが記憶になかった。

ドアが開かない事から幸田が鍵を身につけていないというのは明がであるが、だからといって返して貰っていないとも言い切れない。

万が一、三城から返ってきた鍵を何処か、レストランのテーブルなどに置き忘れてはいないだろうか。

そう考えると居ても経ってもいられなくなった。

「春海さーん、車の鍵って春海さんが持ってるー?」

彼の近くに駆け寄る時間も勿体無いと、焦りを隠せない声で幸田は叫んだ。

三城が持っているとは思う。

否、思いたい。

その間も必死に覚えの無い記憶を遡っていると、丁度自動支払機の操作を終えたらしい三城が振り返った。

ポケットから小さな物を取り出しながら足早に近づくいた彼は、息を整えそれを幸田の手に渡した。

「すまない、うっかりしていた」

「良かった。ううん、僕の方こそどうしても思い出せなくて。でも、春海さんでもそんな事があるんだ」

「そりゃな。旨いワインと極上の美人を前にしたら酔いも回るさ」

「なっ・・・」

『極上の』なんだと言われながらニッと悪戯っぽく笑った三城に腰を強く抱き寄せられれば、暗闇の中でも隠せない程顔が赤らむ。

此処はいつ人が通るかも知れない公共の場なのだ。

いつまで経っても三城のように堂々と立ち振る舞う事など出来そうになく、誰かに見られてしまえば何と思われるか、と思えどけれど緩く彼の胸を押し返す程度の拒否しか見せられないのが幸田であった。



 
*目次*