ストーカー編・8



いくら欲しくもない贈り物とはいえ、エレベーターホールに散らばった己の写真をそのままにするなど出来る筈も無く、幸田は人が来る前にと手早くそれを掻き集めた。

封筒に戻すとは考えも浮かばず、しっかりと胸に抱くと無人で到着したエレベーターに乗り自宅へ上がる。

高級マンションに見合いの高性能エレベーターの機会音は普段ならば気にもならないというのに、今日ばかりは自棄に耳に付く。

それ以上に大きく響く到着音と共にエレベーターが到着すると、幸田はそこからでも見える自宅までの数メートルをダッシュで走り抜けた。

隠れる場所も無い、そもそもオートロック式のマンションの中では不可能だと思いながらも、今この瞬間も姿なき相手からカメラのレンズを向けられているのではないかと感じてしまう。

片腕を完全に封じられた状態でポケットに入れた鍵を取り出すのは困難であったが、焦りながらも何とか開錠し玄関へと滑り込んだ。

「・・・・、・・・」

玄関扉をしっかりと施錠をするとようやく一息を吐く事が出来た。

今日ほど、迎えてくれる人が居ない事を寂しく感じた記憶はない。

日中無人だった部屋はどこか空気の淀みを感じたが、けれど空気の入れ替えに窓を開ける気分になどなれず、幸田はローテーブルの上に大量の写真と配達物を置くとソファーにドサリと腰掛けた。

スーツどころかジャケットすら脱ぐのも面倒だ。

チラリと見たテーブルを占める写真たちは、バラバラな方向を向いているけれどやはり見える限りに自分が写っている。

これは何を意味するのだろうか。

単純な思惟として思い浮かんだのは、ストーカー。

だがそんなものは幸田にとってドラマや漫画やせいぜいドキメンタリーの中に存在するフィクションに限りなく近い存在であった。

まさか自分が被害にあうなんて。

目の前に趣味の悪い写真を突きつけられても、にわかに信じられない。

これは、ただの悪戯ではないか。

とても性質の悪い、悪ふざけ。

そう考える方が余程しっくりと胸に落ち着いた。

ならば誰がこんな真似をするのか、と考えれば、それと同時に一人の生徒が脳裏に浮かぶ。

昨日、幸田の社会生命と引き換えにも思える取引を持ちかけた宍戸は、拒絶を見せた事に怒ったのかもしれない。

とても腹が立って、ムカついて、そうして出た行動がこれなのかもしれない。

そこまでして幸田と───否、誰でも良いからSEXがしたかったのだろうか。

あの年代の性欲と性への興味は二十代も後半の幸田からすれば羨ましい程で、それがあれば三城から求められる夜な夜なの行為も平然と受け止められるのではないか。

そんな事を考えれば、こんな時だというのに口元が緩んでしまった。

早く三城に会いたい、あの広い胸の中に納まりたいと思っても、今夜も彼の帰宅は遅いらしい。

「・・・・どうしようかな、これ」

背もたれから離れた幸田は、テーブルの上に散乱する写真達を眺めた。

嫌がらせならば処分をしてしまおうか。

とっておいても仕方が無いが、けれどもしもゴミ箱の中のこれを三城が見つけたならば余計な心配を持たせるかもしれない。

ならば、どうせ家中のゴミを集めるのも出しに行くのも己なのだから、捨てに行く直前にゴミ袋に忍び込ませるのがベストだ。

名案だと頷いた幸田は、表や裏や好き勝手な方向を向く写真達をそのまま一束に集めると届けられた封筒にそれを戻し、面倒になる前にと、あまり使用していない自室のデスクの上にそれを置きに行ったのだった。


**************

その晩、三城が帰宅をしたのはまだ幸田が起きている時間であった。

けれど、幸田は日常会話の一つも三城と交わせなかったのである。

それというのも、そろそろ眠ろうかとパジャマに着替えた幸田が忘れていたキッチンの片づけをしていると三城が帰ってきたのだが、彼はただいまもそこそこに幸田の唇を唇で塞いだった。

「んっ・・・・ン」

有無を言わさぬ手つきで腰を抱かれ、上半身を仰け反らせればもう片方の腕でそこを支えられる。

逃げる気などないが、例え逃げたくても逃げ場一つない状態でのキスは、三城が離してくれるまでたっぷり数分は続いた。

腰にくる、というキスは正にこの事だ。

唾液が唇の端からだらしなく流れてゆく。

膝はガクガクと震え一人で立っている事が困難になると、無意識のうちに三城にしがみついていた。

こんな、快感を引き出すような熱い口付けをされそのままでいられる筈も無く、そして当然の反応として幸田のペニスは薄いパジャマの下の下着の中でその強度は増している。

ようやく開放されたかと思うと、三城は「ベッドに行くだろ?」と耳元で囁く。

耳軸に響く、甘く低い三城の声音。

他に選択肢などないように幸田は頷いた。

そしてベッドに傾れ込むなり再び激しいキスを施されながら、あっさりとゴムタイプのパジャマのズボンと下着を取り払われたのである。

「ンッ・・・フッ・・・は、春海さん・・・っぅはぁっ・・・」

三城の厚みのある指が幸田のペニスを握る。

彼に触れられたという事にすら快感に感じ、亀頭を撫でられれば息が上がった。

知らずうちに腰を突き出してしまっていた幸田のペニスを三城は一気に加速し扱いた。

「っふっ・・あっ・・あぁっ・・・やっ・・あぁぁ・・」

容赦のない刺激。

どうしたのだろう、今日の彼はいつになく切羽詰まった印象を受けた。

普段は「疲れた」の一言も滅多に口にせず、仕事の話もあまりしてくれないけれど、きっと大きな重圧やストレスを受けその発散をしているのだろう。

「あっ・・・あぁっ・・・春海さん・・・やっ・・気持ちっ・・・イい・・・ンッ」

「恭一・・・恭一、愛してる。もっと声を聞かせてくれ」

朱色に火照った体躯をしならせ、幸田はあられもなく足を大きく開く。

どんな理由であれ三城に求められるのは嬉しくて、彼のリクエスト通り声を抑える事無く嬌声を上げた。

自分などで彼を癒せるならば、いくらでも身体を差し出す。

そう思ったのを最後の思惟に、幸田は快感の熱情に落ちていったのだった。



 
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