三城×幸田・正月帰省・編・10



駐車場に向かうと、隙間無く綺麗に並べてあった車の中から一台が消えていた。

冬樹が既に帰ったのだろう。

「お疲れ」

車に乗り込みエンジンをかけながら、三城は幸田に労いの言葉を贈る。

その一言にいろいろな物が集約されている気がした。

「いえ、、、、」

幸田は歯切れ悪く頷き、それっきり二人の会話は無かった。

お互いに思う所があったのだろう。

幸田の脳裏に、今まで一緒に居た三城の家族の顔が次々に浮ぶ。

概ね良い出だしだったのではないだろうか。

最初から認めてもらえるとは思っていなかっただけに、今日の結果に対する安堵は大きい。

冬樹については、あれが世の大半の反応だろうからしかたがないと思っていた。

これから認めてもらえるように頑張ればいいと考えている。

だが、三城はどうなのだろう。

今日の結果をどのように受け止めているのだろうか。

また、家族に対する幸田の対応についてはどうだろう。

粗相は無かっただろうか。

他に考えるべき事もあるだろうに、自分の事ばかり考えてしまう己を情けなく思いながら幸田はため息をついた。

「どうした?」

「あ、いえ。今日は、どうでしたか?」

ため息を聞かれたのだろう。

虚を突かれたため、質問を質問で返してしまったが、幸い三城は嫌な顔をしなかった。

「まぁ、良かったんじゃないのか?反対されるとは元から思っていなかったが、父さんも母さんも恭一の事を気にいってくれたみたいで安心したよ。」

「反対されるとは思っていなかった」と聞けば、幸田の胸が何とも言えずにザワリと鳴った。

この感覚がなんなのか、全く解らない。

そういえば、三城は最初から「大丈夫」だとしか言わなかった。

頭の良い三城の事だ。

少しでも反対や批判をされる可能性があるなら、幸田を連れて行こうなどと思わないだろう。

そして、その計算の中には冬樹は入っていなかったらしい。

眼中に無い、と言うべきか。

「お兄さん、、、冬樹さん、、あの」

何を言いたい訳でもなく、幸田が無計画に口にしてしまったその名前を聞くと、三城はゆるく頭を振りながらどうでも良さそうに言い捨てた。

「いいんだよ、兄さんは。いつもあんな感じだ。俺が弁護士にならなかった時も、秋人兄さんが自営業するって言った時も、あの人は一人で騒いでいたんだ。」

「、、、そうなんですか。」

「両親さえ押さえておけば問題は無い」

そういうものなのか、と幸田はまたため息をついた。

家族の同意を得るという事は、天涯孤独・親戚すら居ない幸田にとっては、何処か他人事のように自身の事と切り離して考えてしまう。

故に「皆仲良く」する為には、必要な事なのではないかと無責任に思うのだ。

けれど、「嫁」ともなると「婿」の実家の事を無関係と言ってられないよな、とそれも他人事のように脳裏を過ぎった。

ゲイとして生きてきた幸田は、「結婚」などと言う言葉に実感が持てないでいる。

唯一の証である指輪を視界に止めると、「そういえば」と口を開いた。

「あ、今から予定あるんですか?僕帰りますね。」

帰り際、三城が沙耶子に言った言葉を思い出したのだ。

幸田は何も聞いていなかったので、三城自身の予定だろうと思った。

「いや?そんなものは無いが?」

「え、だってさっき」

「あぁ、あんなもの、帰りたい時の常套句だろ。」

「そんな、、、」

いともあっさりと言う三城を、幸田は呆然と見つめた。

言われてみればそうなのだが、今の今までそんな事を考えなかった。

自分の浅はかさに、密かにため息をつく。

「あんまり両親が恭一を構うからな。早く独り占めしたかった」

「何言ってるんですか」

ニヤリと笑い冗談めかしに嘯く三城を、「バカじゃないですか」と口の中でモゴモゴと言いながら、幸田はチラリと見つめた。

緊張が解かれると、急に甘えたくなるらしい。

微かに赤くなった顔を窓に向けた幸田は、片手を伸ばしハンドルの上の三城の手に手を重ねていた。



 
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