三城×幸田・正月帰省・編・4



「はぁい」

間もなくして、明るい女性の声と共に玄関扉が開けられた。

「お帰りなさい、もうお兄ちゃん達は来ているわよ。、、、、アラ?」

三城を見つけ、ニコニコと話し出したこの女性は三城の母親だろう。

50代そこそこいや、40代と言ってもいいだろう雰囲気の綺麗な人だが三城とは全く似ていない。

薄い色のブラウスと膝丈スカートを着ており、「やさしいお母さん」像そのもののような人だ。

だが三城の傍らに立つ幸田を見た途端、不思議そうにじっと幸田を見つめた。

視線を受けた幸田は、ハニカミ笑いと言うか、無理に口角を上げて必死に笑んで見せた。

母親の瞳は、何かを図りかねているようにも見える。

そりゃそうだ。

今日三城は「嫁を連れて帰る」と言ったらしい。

そう言われれば当然女性が来ると思っていただろうに、目の前に居るのはスーツ姿も決まった男だ。

いくら幸田が、日本美女顔負けの類稀なる容姿をしているとはいえ、許される範囲を超えているだろう。

誰も何も言わない数秒間を崩したのは、三城の母親だった。

「、、、この方が、お嫁さん?」

「よく解りましたね。」

母の問いにも驚いたが、三城が余りに平然としているので幸田は何も言えなかった。

無意識に口が半開きにならないようにだけ注意を配り、消えてしまいたい衝動にひたすら耐える。

「だって、春海くんが『お嫁さんを連れて来る』って言ったのよ?ふふ、そりゃ解るわ。まさか男の方だとは思わなかったけど。」

先ほどの言葉を選んだとばかりの口調が、三城の肯定を聞くとそれは楽しげな口調へと変化した。

コロコロと笑う、というのはこういった事を言うのだろう。

「あぁ、そうですね」

「あらいけない。はじめまして、春海の母の沙耶子【さやこ】です。いつも春海がお世話になってます。」

慌てて沙耶子はそう言うと、幸田に向かって丁寧にお辞儀をした。

「いっいえ、お世話になってるのは僕の方で。えっと、あ、申し送れました。幸田恭一と言います」

まさかの反応が続き、ここでこんな丁寧な挨拶をもらえると思っていなかった幸田は慌てて挨拶を返した。

頭の中で思い描いていたシュチュエーションとは大きくかけ離れていたため、挨拶もしどろもどろだ。

一社会人として最低限のレベルすらクリア出来なかった気がする。

初対面の、しかも恋人の母親に与えた印象としては最悪かもしれない。

そんな事を思いながら、恐る恐る顔をあげると、沙耶子は優しげな笑みを浮かべていた。

「ふふ、可愛らしい方。昔から春海くんはこんなタイプの子が好きだったわね」

「母さん、やめてください」

「恋人の前でする話しじゃなかったわね、ごめんなさい」

言葉とは裏腹に、二人はじゃれあうように楽しげだ。

チラリと盗み見た三城の横顔も優しげで、幸田の視線に気づいたのかこちらを見るとニコリと微笑んだ。

腰を抱かれていたはずの腕は、いつの間にか離されていたが気にならなかった。

一通りの会話を終えたところでようやく、「立ち話もなんだから」と中へと進められたのだった。



 
*目次*