三城×幸田・正月帰省・編・5



一歩入った三城家は、清潔な綺麗さを感じる家だった。

正月という事もあるのだろうが、玄関から廊下の隅に至るまで手入れが行き届き、よもや塵一つ無いのではないだろうかと思った。

一人暮らしも長い幸田はそんな事にすら感動を覚えながら、進められるままにリビングへと歩んで行く。

途中沙耶子は、

「お茶を入れて来るわね。」

とキッチンへ消えていった。

いかにもリビングに入るだろう擦りガラスの扉を前に、幸田の心臓はこれでもかと鼓動がドクドクと高鳴ったが、開けてみるとそこには誰も居なかった。

「父さん達は書庫かお互いの車の自慢でもしてるんじゃないのか。」

三城は大して気にも留めず、中央に置かれたソファーにドカリと腰掛けた。

幸田は張り詰めていた気を抜いて深いため息を吐き、三城の隣にそろそろと座る。

そのため息が大きかったのか、三城がクスリと笑った。

「それにしても、、、えっと」

照れ隠しに口を開いた幸田が言いたかったのは沙耶子の事だ。

だが、上手く当たり障りの無い言葉を見つけれず口ごもってしまう。

「驚いたか?」

相変わらず察しの良い三城は、「何が」とは言わずに助け舟を出してくれ、それをありがたく思いながら幸田はコクリと頷いた。

「えぇ、、まぁ。反対されたり怒鳴られたりする事しか考えてませんでしたから。」

「母さんは少女趣味だからな。恭一の顔が気に入ったんだろう。」

「そんな訳、、、」

無い、と幸田は首を振った。

骨格がしっかりしており凛々しさ漂う三城にに比べ、女性的な美人の幸田の方が少女漫画に出てきそうな雰囲気はある。

だからと言って、それだけで息子の男の恋人をああもすんなり受け入れられるものなのだろうか。

「信じていないんじゃないですか?」

「それは無いな。ああ見えて冗談を言う人じゃない。」

「そうなんですか、、、」

幸田の本心を言うならば、それこそ信じられない気分だった。

軽いおしゃべりや噂話なんかも好きそうなタイプに見えたからだ。

「あの人は何処までも本気だよ。あれでも元弁護士だしな。」

「えぇ!!」

失礼だと思ったのは叫び終えてからだった。

だが三城は気を悪くした様子も見せず、楽しげに笑う。

「驚くのも無理ないだろうけどな。元々うちは弁護士の家系なんだよ。でも、両親はそういった事に拘らなくてな。自らの意思で長兄は弁護士になったが、次兄と俺は好きにさせてもらってるよ。」

「そうなんですか、、、、」

あの優しいだけの印象の沙耶子が法廷に立つなんて想像も出来ない。

殺人犯を前に「ダメよ、ほら謝りなさい」などと、子供を嗜めるような事を言いそうなイメージしか浮ばなかった。

軽口を叩いている風に見えて、それが本気な所は三城の特徴と似ている。

「春海くんが『お嫁さんを連れて来る』って言ったのよ?」

沙耶子の声が脳裏で蘇る。

沙耶子にも解っていたのだ。

三城がこういった冗談を言わない事を。

やはり親子だと思った幸田は、何故かため息を吐いて肩を落とした。



 
*目次*