三城×幸田・正月帰省・編・9



散々に幸田を「綺麗だ」「美人だ」と褒めそたやした両親は一息吐くとようやく、三城の二人の兄の紹介をしてくれた。

やはり最初に会った(濃厚なキスシーンを見られてしまった)秋人と呼ばれた男性が次男で、大治と共に現れた冬樹と呼ばれた男性が長男だった。

話しに聞いていた通り、冬樹は父・大治の経営する弁護士事務所で弁護士をしているという。

年は三城よりもちょうど10歳上の38歳。

「一応」結婚もし、子供も二人居るらしい。

大治が冬樹の紹介をしている間も当の本人は幸田を見ようとせず、あからさまに不機嫌そうな顔のまま「どうも」とだけ言い、それも終わると何も言わずに部屋を出て行ったが、誰も止める者はいなかった。

どうやら、両親共に幸田の容姿をこれでもかと褒めた事も気に入らなかったらしい。

続いて紹介を受けた次男の秋人は35歳で自営業だそうだ。

東京を中心に飲食店などを数店舗も持つ、いわゆる青年実業家らしい。

店舗も増え、各店の管理は人に任せて総合的な経営に携わってはいるらしいのだが、一番最初に開店した店にだけは頻繁に顔を出しているという。

それは新宿にあるというバーで、幸田も秋人自身から店名の入った名刺を貰った。

「よかったら遊びに来てください。ご馳走しますよ」

「ありがとうございます。」

社交辞令だろうが、ありがたく名詞を受け取る。

秋人は冬樹に比べるならばまだ好意的だった。

それは表面的なものなのかもしれないが、それでも幸田にとっては十分だ。

もとより三城との関係や自分の性癖は、大半の人に受け入れられないだろうという覚悟は出来ている。

一通りの挨拶を終えると、幸田は両親主に沙耶子からの質問攻めに合う事となった。

「お勤めはどちらに?」

「予備校で講師をしています。」

「あら、先生ですか。教科は何を?」

「数学を。」

予備校とはいえ、教師という職業の受けは良かったのだろう。

元から好意的だった沙耶子の表情が更に柔らかいものへと変化する。

「まぁ、知的な方だとは思っていましたけど、凄いわ。」

「いえ、そんな三き、、、春海さんの方がよほど、、、」

「謙遜なさる所も素敵だわ。」

日本のトップの大学で、しかも院卒の三城を前に謙遜も何もないだろうに。

それでも、そう言う沙耶子からは悪意や嫌味は見えず、逆にとても気に入られたようだ。

随分な時間を質問タイムに費やされたが、その間口を閉ざしていた三城が「そろそろ」と声をかけ場はお開きとなった。

「あら、お夕食も食べて行けばいいのに。」

「次の予定もあるので。また後日ゆっくりと伺いますよ」

玄関に向かい靴を履きながら、「予定などあっただろうか」と密かに首を傾げる幸田をまるで無視した三城がニコヤカな調子で答える。

「そう?恭一さんもまたいらしてね。今日はとても楽しかったわ」

「いえ、僕の方こそ。いろいろとありがとうございました。」

沙耶子の言葉に幸田は慌てて頭を下げた。

それは心からの礼だった。

沙耶子の、想像を遥かに超える程の暖かいもてなしと優しい言葉に、今は亡き母を重ねてしまっていたのだ。

見た目も中身もまるで違うだろうに、そうさせたのは「母」という存在の大きさだろうか。

「私の方こそ。ほら、うちって男だかりでしょ?お婿さんを貰う事なんて無いと思っていたから嬉しいわ。」

ニコニコと言う沙耶子を前に、幸田は反応に困りながら微笑んだ。

隣に立つ三城は「そうでしょう」などと無責任な相槌を打っている。

普通なら、娘が居ないから嫁を貰って娘が欲しい、と思うのではないだろうか。

冬樹には嫁がいるらしいから、それはそれで満足しているという事か。

最初に幸田と対面した時の反応といい、沙耶子は何処か少しずれているのかもしれない。

さすが三城の母と言うべきか、只者ではなさそうだ。

「母という存在の大きさ」などと言いながら、沙耶子にはまた違う力があるのではないかと思う幸田だった。



 
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