麗しき夜叉に囚われて   試し読み [本文冒頭より]



アメリカ・ケネディ空港。搭乗ゲートフロア。

広々としたそこは行きかう様々な人種と楽しげな雰囲気で溢れ、一面のガラス張りの窓からは太陽の光が眩しく差し込む。

そんな中。

美原暁【みはら・あきら】の目には、ある一点にキラキラと輝く光が集まって見えていた。

(───幻?)

もしくは、仕事疲れの白昼夢。そうでないというのならば現実という事になるが、まさか考え難い。

こんな、いくら人が集まる空港とはいえ海外の地で───理想の男そのものの日本人男性を見つけるなんて。そのうえ、多くの人々が行きかっているというのに暁と10メートル先に立つその男との間を誰も通りはしなかった。

(芸能人? ………モデル、とか?)

海外で活躍する、日本人モデルか俳優。

そうであると言うならば、まだ納得は出来る。それ程までに、その男は頭の天辺からつま先まで、全てが整い過ぎていた。

声を聞いてみたい。

どこの誰であるのか知りたい。

そうは思えど、相手は見知らぬ人間、それも同性の男だ。

いきなり話しかければ不審がられる他にない。

ならば、もう少しだけ、もう少しで良いので見ていたい。

 暁がそう強く胸に感じた、その時。

(………あ)

───斜めを向いていた理想の彼が首を振ると、暁を真っ直ぐに見つめた。

それだけではない。彼が、微笑んだ。

自惚れの勘違いかも知れない。だたの偶然だという可能性ももちろんある。

しかし暁の目には、彼が、自分だけに微笑みかけてくれたように思えてならなかった。

目に見えぬ物に全身を縛られたような錯覚に陥る。まるで時間は止まったように、周囲の雑踏は無音のように。

(どうしよう、やっぱりカッコいい…………ぁ)

けれど、その幸せな時間は長くは続きはしない。

体感時間にして3分あまり。

だが、実際の時間は一分にも満たないものだっただろう。

観光客の団体が、二人の間を無常にも通り過ぎて行く。

(待って、彼は俺の……)

しかし、その人の波が去った時、そこにはもう彼の姿は無かったのだった。