やっぱり好きな人・編・06



 一人のベッドで目を覚ますのももはや慣れきってしまった。
 朝の忙しい時間は、そこに寂しさを感じる間もない。最近はもっぱら弁当を作っていないが、不思議と時間に余裕は出来ず、変わらずにバタバタとしている。
「えーっと、洗濯機回して……そうだ、クリーニングが戻ってたんだった」
 一応の身支度を調え、恭一は部屋の中を小さく走っていた。
 いくら忙しいとはいえ、この時間でしておかなければならない事は毎日ある。掃除は帰宅してからでも構わないが、洗濯は朝にしなければ、何より恭一自身が落ち着かない。
 洗濯籠の中を覗き、二種類に分類する。洗濯機で洗う物と、クリーニングに出す物だ。恭一だけ
ならば大抵の物を当然のように自宅で洗ってしまうが、三城はそうとはいかない。
 彼自身のこだわりと、立場的な物もあり、スーツの類いはもちろん、シャツもクリーニングだ。
 クリーニングは確かに便利で、出しさえすればアイロンも掛かった新品同様の状態で返って来る。そのうえこのマンションは、エントランス・カウンターでクリーニングサービスが受けられるので、二十四時間いつでも引き取りも出来る。なんとも便利だ。
 ただ、それだけに恭一が関与しない部分で三城が受け渡しをしており、気づかない場面もある。
 今がまさにそれで、玄関に置きっぱなしにされていたクリーニング店の袋が被せられたワイシャツを三枚見つけた。
 昨晩三城が帰宅して、そのままだったのだろう。あの時の彼の様子から、恭一に一言もなかったとしても無碍には出来ない。
「さっさと片付けて、出かけないと」
 慣れた手つきで洗濯機を回し、クリーニングに出す物を紙袋に詰める。
 そうして玄関で拾ったクリーニング済みのワイシャツを抱え、三城のウォークインクローゼットに入った。
 ビニールのカバーを外し、ハンガーを自宅の物に変える。そうしてシャツが並ぶそこに駆けると、それだけで一息をつけた。やりきった感だ。
「よし。コンビニに寄らないといけないし、急がないと……あれ? なにコレ」
 そこから出ようとした恭一の目に入った、ハンガーポールの下に置かれた、チェスト。木製のその上に置かれた、見慣れない物に視線を奪われた。
「革……?」
 三城の私物を全てチェックするつもりはない。見慣れない物があったとしても一々気にもとめないし、そういった事が少ないわけでもない。
 ただ、あの三城が所定位置とも思えないチェストの上にそれを放置していた事が第一に気にかかったのだ。それも、クシャクシャに丸められたように置かれていたから。
「革の……えっ」
 そうして引き寄せられるように手に取ってしまったそれを広げてみると、恭一は益々目が離せなくなった。
「ぱ、パンツ……?」
 右に回してみても、左に回してみても、それはどう見ても革製のTバックだった。ただ、普通のそれと違う部分といえば、メンズ用らしき盛り上がりが前部分にある事と、シルバーのスタッズがいくつもついている事だろう。
「春海さんの、かな」
 彼がこのような下着を好むとは知らないし、身につけている場面を見た事もない。そのうえ、新品らしき袋にも入っていなければタグもついていない。それが乱雑に置かれていた事がどこか引っかかる。
 しかし。
「わっ、時間がない!」
 今はぼんやりとしている暇がない、朝の時間。
 一瞬迷いながらも、手の中のTバックを元の場所に戻すと、恭一は慌ててウォークインクローゼットを後にしたのだった。



  
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