やっぱり好きな人・編・11



 仕事を終え、宵の口を回る頃。恭一は愛車で電気街に来ていた。
「こういう所、久しぶり……」
 さも堂々としたビルを見上げる。目当てのそこは、まるで扱う商品は誇れる物だと主張しているようだ。
 明るくポップな看板が掲げられ、入りやすい。けれどそこに貼られているポスターは、露出度の高い女性が微笑んでいる物ばかりだった。
 ふとすれば単なるDVDショップ。しかしそこがただのDVDを扱っているわけではない事はどこから見ても明らかで、恭一は足早にその中に入って行った。
「えっと……上か」
 ここに来た目的は一つ。三城との、刺激的な時間を過ごす為だ。
 無数に並べられたアダルトビデオは此処の主力商品で、つまるところこの店は大型のアダルトショップである。
 壁に掲げられたフロア案内を確認し、目的フロアへ上がる。その内心は、まるで思春期の青年のようにドキドキしていた。周囲は、どこを見てもあられもない単語が並んでいる。
 恭一がこの手の店に来た事がないとは言わない。まだインターネットやアダルト動画の配信が主流ではなかった時代には、この手の店に来るしかなかった。とはいえ、女優物のビデオに比べればゲイ向けの商品は当たり前のように悲しい程に少ない。そのうえ、ただでさえアダルトビデオを購入するというのは勇気が要る事であるのに、ゲイ向けとなると必要な勇気は数倍に膨れあがる。
 そういった経緯からも、欲があったものの購入に至った事は少なく、この手の店に来る自体が稀であった。
 そのうえ、今恭一が向かっている類いのコーナーには、足を踏み入れた事がなかった。
「あ、あった。わ……結構、色々あるんだ」
 フロアに入ってまず目に飛び込んだのは、四角い箱。女性の写真やイラストの描かれた大小様々な箱が、いくつもの棚に高く積み上げられていた。所謂(いわゆる)オナホールだろう。実物を見たこともないし、今日の目的でもない。
 その次に、スケルトンのボトル。様々な色や形をしたボトルが、ポップなラベルで並んでいる。こちらは見慣れた物だ。男同士の場合必須と言っても過言では無い、ラブローションの類いだ。
「こっち、かな……」
 奥に進むに連れ、ローターやバイブ、ディルドといった直接的な物のコーナーになる。それらをチラリとだけ見たが、今回の趣旨とは違うと通り過ぎた。
「どこにあるんだろ……」
 店内に人気(ひとけ)はまばらにある。男性一人で来ている人、男性が友人同士らしい雰囲気でふざけ合っている人達、カップル。此処に居る人達は目的は違えどそれらの商品に興味があり訪れている。此処に居る事は恥ずかしい。だが、彼らも同士だ。
 これらは、商品として量産され市場に出回っている物だ。それだけのニーズがあり、求める人も多く居る。自分だけではない。
 そう、心の中で繰り返す。
 様々な衣類が並ぶコスチュームコーナーも色鮮やかなランジェリーコーナーも通り過ぎる。
 当然なのかもしれないが、想像以上に女性に使用する物ばかりがフロアの大半を占めている。男女のカップル向けであるのは仕方が無いとしても、男性用の物も多くあるのだと無意識に思い込んでいた。しかし現実は、男が一人で使用する、入り口に高く積み上げられていたオナホールの他は、男が女性に使用する前提の物ばかりだ。木村が言っていたように、世の女性は恥ずかしい事が好きなのかもしれない。コスプレも女性用デザインの、女性用サイズばかりだった。ただランジェリーだけは、メンズと書かれたコーナーも女性用と同じ広さがあったが、中には女性用のようなデザインが混ざって見えた。
 何にしろ、いくら開き直っても、商品を凝視するのは気恥ずかしさが拭えないものだ。
「……春海さんの為、春海さんの為」
 奇妙な見慣れない形の物が並ぶので気にはなるが手に取る事がはばかられる。この場に居る事も、いたたまれなくなっていく。
 それでも踵(きびす)を返そうと思えないのは、三城と甘い時間を過ごす為。
 これからも三城と、日常を当たり前に、感謝のない当然の物にしないように。少しの刺激がある、楽しいと幸せだと思える生活に出来るように。
 新たな一歩を踏み出すのだ。
「……ぁ」
 そうして、ほぼほぼフロアの一番端まで来た時だ。恭一はようやく歩みを止めると、そこに並んだ商品を眺めた。
「こういうの、春海さん好き、かな」
 それまでにあったローターやバイブといった直接的な物はパステルカラーの可愛らしい物も多かったが、これらは違う。
 黒い合皮やシルバーの鋲。どこか恐ろしさも醸し出している、手枷やアイマスクといった物が並んでいた。
 上を見れば、壁にはより頑丈で高級感が漂う品々がある。けれどそれは手にするのもはばかられる雰囲気だ。
 それよりも棚に平積みされているパッケージ入りの物は、より手軽な印象と価格だ。カップル向けで、本格的な物ではないのだろう。
 木村が言っていたように、少しの刺激を求めるには丁度良い物のように思える。そのうえ、こういった商品の方が多く扱われている事から、需要の多さを感じた。
「皆、結構、使ってるのかな……」
 とはいえ、他のグッズに比べればジャンルに対して種類が少ない。
 一般的なカップルの使用頻度、それは考えない方がよさそうだ。そもそも男同士である時点で「一般的なカップル」ではないとも言える。
「どれに、しようか……」
 手枷、アイマスク、ボールギャグ、バラムチ、首輪。この辺りが主流なのだろう。ならば初めは、定番を選ぶ方が良さそうだ。
「どれも、イメージつかないけど」
 三城に使用すると考えてみても、どうにもピンとこない。かといって、自分に使用されると考えればイメージがつく分けでもなかった。
 そこにあるのはどれも、日常的に馴染みがない物で、イメージが出来なくて当たり前なのかもしれない。
「だったら……」
 少しの刺激。それだけを念頭に置き、恭一はソレを手に取った。女性のパッケージが多い中で、男性モデルが使用しているので、サイズ的にも問題はなさそうだ。
「嫌がったら、止めたら良いんだよね。想像出来ないし。でも、もし興味があるなら……」
 これからも三城と、互いを知り合って、遠慮のない関係を築いていきたい。
 自分の欲の為ではなく、二人の為に。
 こういったラブグッズはそういった目的の為にあるのかもしれないと初めて思った。

*目次*