やっぱり好きな人・編・16



 今後、また三城が着たく出来ない程の多忙になったら。
 その時は不安を持たずに彼を待てるだろうか。
「……恭一」
「春っ……ん」
 アルコールもそこそこに食事を終え、ホテルの客室に向かった。どこか急いだ足取りであった三城を追うように部屋に入ると、扉が閉まるのを待たずに彼は恭一の唇を奪った。
 彼の舌先が、恭一の唇を割る。求めるように恭一もまた舌を伸ばすと、互いのそれを絡み合わせた。
 熱く、甘い。
 日常的に他者と触れ合う事のないそこは敏感で、擦り合わされる度に痺れが走る。初めこそ積極的に三城を欲していた恭一だが、次第にその動きは鈍っていく。
 ただただ三城に翻弄されるばかり。無意識の内に三城のジャケットを握りしめる事で身体を支えていた。
 ネットリとした、甘い口づけ。たったそれだけで、欲情は呼び起こされる。
 閉ざした瞼も、膝も、知らず内に震えていく。
 そうとした時、ようやく三城は唇を離した。
「誰が、恭一に飽きたって?」
「ごめん、なさい」
 息が届く距離で、三城が囁く。その眼差しは睨み付けるというよりも、恨みがましい物に見えた。
 三城を、信じていなかったのかもしれない。時の流れは人を変え、当然のように三城にも当てはまるのだと、思い込んでいた。
「恭一を不安にさせた俺にも責任はある。だから今夜は、責任を取ってやろう」
「え……せ、責任は、取らなくて良い、かな」
「遠慮するな」
 ニヤリと狡猾に笑む三城からは嫌な予感しかしない。
 けれど腰を抱かれ、彼の腕の中に収まる恭一には逃げる術などない。
 もう、囚われているのだ。三城という男そのものに。
「来い」
「あっ……」
「もう、限界だ」
 腕を引かれベッドへ向かう。そうして掴まれていたその腕を放られると、バッグも手にしたまま恭一はシーツの上に投げ出された。
 丁寧なベッドメイキングが施されたダブルベッド。柔らかいマットを背中に感じた。
「服、脱がないと」
「脱がせてやる」
「く、靴も」
「心配するな、俺がしてやる」
「で、でも……」
「普段とは違う事をするんだろ? だったら、全部俺にさせろ」
「……春海さん、怒ってる?」
「いや。恭一に解らせたいだけだ。俺は、恭一にマンネリを感じたりしていないという事をな」
 三城の手が、恭一の革靴を脱がせる。その手が靴下も脱がせ、素足に新鮮な空気を感じる。
 それだけの事だというのに、どうにも気恥ずかしくなっていく。普段三城がしない事という意味では十分に刺激的だ。
「次はネクタイか」
 ベッドに上がった三城が、恭一の膝を跨ぎ覆い被さる。そうして見下ろされながら彼の指がネクタイに掛かった時だ。
 ふと視線を外した三城は、身体を起こすと、どこかねっとりとした笑みを浮かべた。
「俺にマンネリだどうだと言っていたが、マンネリを感じていたのは恭一の方じゃないのか?」
「え? そんな訳……」
 三城に飽きも不満も感じていない。だからこそ、彼がそう感じているのではないかと焦ったのだ。
 突然の彼の言葉に疑問すら浮かぶ。
 けれど恭一の頭上に手を伸ばした三城が、そこから取り上げた物が目に入ると、恭一は慌てて言葉を並べた。
「違う、それは、えっと、春海さんが、なんていうか、新しい事したいならって」
 恭一がベッドへ投げられた衝撃で、手にしていたバッグが空いたのだろう。
 先程アダルトショップで購入したばかりの商品を、三城が手にしていた。



  
*目次*