やっぱり好きな人・編・17



 彼がマンネリを感じていた訳ではないのなら、これは使うまいと考えていた。購入するだけでも恥ずかしかったのだから、勇気を振り絞ってまで三城に使用を進めるでもないと、なかった事にしようと、考えていたというのに。
 まじまじとそれを眺めた後、三城は面白がるように恭一を見つめた。
「それで、こんな物を買ってきたのか? 本当は、ただ使ってみたかっただけじゃないのか?」
「違うよ。だってそれは、春海さん用に……」
「俺に? 俺がこれを填めさせるとでも思ったのか? 俺よりも余程、恭一の方が似合うだろ」
「そんな……えっと……もう、もう良いじゃない。ね、そんなの使わなくても」
「あぁそう言えば、これとあの下着は似合いそうじゃないか」
「は、春海さん、春海さん!」
 嫌な予感しかさせない笑みを浮かべたまま、三城は恭一の上から退いた。
 そのままベッドから降りると、彼はジャケットを脱ぎそれをハンガーに掛けた。
「春海さん、僕も脱ぐよ、それからシャワーでも」
「そうだな、ジャケットとネクタイだけ外してろ。それだけだ」
「……解った」
 今の三城に何を言っても無駄だ。これまでの経験で嫌という程理解している。
 大人しく言われた物だけを脱ぎ、ハンガーに掛けに行く。横目で見た三城はネクタイも外し、扉のすぐ近くに置いていたバッグから何かを取り出していた。大方、あの下着だろう。
「春海さん、シャワーは……」
「後にしろ」
「……うん」
 そろそろとベッドに戻る。
 予定外の展開になってしまった。けれどそれでも、先程の口づけで火照った身体が冷める事はない。
 早く、戻って来て欲しい。今となっては下着やもう一つの物などどうでも良くなっている。
 シーツの上に横たわり、首を回して三城を探す。
 そうしていると、程なくして三城が戻った。
「良い子で待ってたか?」
「……うん」
「こっちも、準備は出来てるぞ」
「あ……」
 三城が手にした物を恭一に見せるように掲げる。
 それは、先日一度だけ目にした革製の下着。スタッズ飾りの付いた、機能性が悪いとしか思えない、Tバック。
 そしてもう一つ。数時間前に恭一が購入したばかりの、今しがた三城が開封したばかりの――手枷。
 その二つは、素材の差こそあれど、まるで揃いのような印象を与えた。
「早く付けて欲しいだろ?」
「そんな事……」
「あぁ、俺に付けるつもりだったんだな。それで? 俺に付けて何をするつもりだったんだ?」
 恭一の元へ戻って来た三城は、再び覆い被さってくる。
 頭の横に腕を突かれたかと思うと、鼻先が触れ合う程顔が近づいた。
 吐息が、唇に掛かる。その途端、急にそこが寂しくなった。
 両腕を伸ばし、三城の首を抱く。目の前にある彼の瞳に視線が釘付けられた。
「春海さん、キスして。早く……」
「良い顔だ。だが、まだだ」
「……え」
「これを、つけないとな」
「あ……」
 もう目の前まで迫っていた唇が、そこから離れる。
 そして彼の首から腕を離されたかと思うと、恭一は手首に合皮の感触を得た。
「大人しくしていろ。早くキスして欲しいんだろ」
「んっ……」
 手間取る事などなく、三城は恭一の手首に合皮製のベルトを巻き付ける。片方を終えると、鎖で繋がれたもう一つも反対の手首に固定した。
 安価でチープな商品だと思っていたが、想像以上に圧迫感があり、身動きが取れない。試しに引っ張ってみたが、金具がカチャカチャとなるだけで、外れる気配はなかった。
「似合っているぞ、恭一」
「こんなの、似合うとか……」
「恭一が俺の物だと形にしているようだ。加虐趣味はないつもりだったが、こうして恭一を拘束するのは良いかもしれない」
「僕が春海さんにしたかったのに……」
「どっちでも同じだろ。恭一は俺の物だが、俺は恭一の物だ」
「……そんなの、屁理屈だよ」
 そう唇を尖らしながらも、どこか満足げな三城に恭一はそれ以上何も言えなくなる。
 心は、とっくに三城に縛られている。それを目に見える形にしたというのは、しっくりと来た。
「恭一、手は上だ」
「春海さん、早く……」
 手枷の鎖は十五センチ程。それだけしか腕を開く事は出来なかったが、三城の背に回すには十分だ。
 彼の頭部を抱きしめ、引き寄せる。
 腕が広く開かないから、腕を輪にするしか出来ないから。腕の中の三城も、易々とそこから逃れ(のがれ)られないのかもしれない。ならばそれも良い。
「恭一……」
 三城の薄い唇が、恭一のそこに重なる。
 先程よりも熱い口づけ。
 少し腕を動かしただけでカチャリと金属音を立てる手枷。拘束されているのは自分である筈なのに、同時に三城をも縛り上げているような錯覚になると、触れ合う舌先がより刺激を感じた。
 好きで、好きで、堪らない。
 知っていた筈の感情を改めて胸に宿し、恭一は流されるようなキスを唇が離れるまでむさぼり続けたのだった。

  
*目次*