やっぱり好きな人・編・19



 三城の指が、体内をくすぐる。
 慣れた手つきの彼は、恭一の胸の横に手を突き、顔を覗き込みながらそこを解していた。
「随分と、解れたな」
「あっ……はっ……」
「どうした? もう、これだけで良さそうじゃないか」
「そんな……違っ……春海さんが……あっ」
 解しているのか、ただ弄(もてあそ)んでいるのか。
 三城は良い所に触れたかと思うと、すぐに離す。それを何度も繰り返され、ただただ欲情ばかりがせり上がる。
 彼の事だ、理解した上でそうしているのだろう。
 加虐の趣味がないなどと言う言葉を、今後鵜呑みにしない方が良さそうだ。
「もっと……良い所……して、春海さん……」
「さぁ、何処だろうな」
「知ってる、くせに……」
「あぁ。恭一の身体は知り尽くしている」
 三城を、睨み付けたい。けれど頭上の彼を見上げる眼差しは、どうにも弱々しく眇(すがめ)られる。
 唇を閉ざす事も出来ず、半端に開いたそこから熱い吐息が漏れる。
「い、挿れて……ねぇ、春海さんの、挿れて」
「まだだ」
「嫌……挿れて、欲しい……」
「今日の恭一は随分と可愛いな」
「……春海さんが、意地悪なんだよ……あっ!」
 やはり、解っていてしているとしか思えない。
 恭一が苦言を口にした途端、三城はそこばかりを押し上げた。
 睾丸の裏にある、前立腺が。ピンポイントにくすぐられるから。
 もう瞼すら持ち上げていられなくなり、恭一は強く目を瞑(つぶ)った。
「うっ……ふっ……はぁっ、あぁ、あっ……」
 何かに、縋りつきたい。
 けれど。
「じっといていろ」
「あっ……」
 まるでそれを見透かされたように、三城に両手を頭上で纏めて押さえつけられた。まともに動かせないそこはとても不自由で、ただ空を掴むように指を動かしても、当然ようにそこには何もない。
 繋がれた腕の不自由さを改めて感じながら、恭一はいやいやと首を横に振った。
「あっ……やめ……春海、さん……あっ……」
 ビクビクと身体が震える。
 久しぶりに感じる、深い快感。けれど、まだ足りない。
 いくら刺激を受けたところで、心までは満たされない。
「お願い……春海さん……挿れて……」
「良い声だ。そうだな、そろそろ俺も限界だ。恭一が、欲しい」
「ひっ……」
 耳元で、三城が囁く。
 恭一はそこが弱いのだと、良く知っての事だ。
 彼の指がアナルから抜かれる。何本も入れられていたそれが無くなると、内部は空虚感に襲われた。
 もっと、触れて欲しい。良い部分を刺激して欲しい。
 けれどそれは指だけでは足りなくて。
 乱れたままの呼吸で、三城を眺める。どこかぼんやりとそうしていると、彼は口元に笑みを浮かべたまま、恭一の太ももに再び触れると、今度は高く持ち上げた。
「やはり、こういう格好も、良いのかもしれない」
「……え?」
「そういう物を好む人種を理解出来なかったが、今度社長には良い報告が出来そうだ」
「……あ。そんな、報告しないで……」
「言葉は選ばなくてはならないが」
 この、肝心な部分が着脱出来る下着を入手した経緯を思い出した。これがそもそもの発端だ。
 三城が自らの意思で購入した訳では無い下着。本当は彼が履いているところを見たかった下着。
 けれどそれで彼が喜ぶなら。決して嫌なばかりでもない。
「そういう問題じゃないよ……んっ……」
「恭一は、俺の事だけを考えていろ」
「はっ……ふっ……んっんん……」
「っ……きょう、いち」
 アナルに、三城のペニスが宛がわれる。そうして、ローションを纏わせたそれが、ゆっくりと内部に侵入した。
「あぁ……あぁ、あっあはぁっ……」
 これだ。これが、欲しかったのだ。
 指よりも奥を力強く押し上げる、太く、硬いモノ。彼の熱を感じる、雄々しいモノ。
 指よりも、恭一自身よりも質量があるペニス。
「久しぶりだと、少しキツイか……」
「い、良い……春海さん……すご、い」
「挿れただけで、そんな顔をするのか」
「はっ……」
 三城が身体を倒すと、ペニスはより深く差し込まれた。
 唇が触れ合う程近くに、三城の顔がある。この距離ならば、繋がれた両腕でも彼を抱きしめる事が出来る。
 しかし、押さえつけられた腕では、彼の力に適わない。
「……春海さん」
「どうした?」
「手、離して」
「駄目だ」
「そんな……」
「可愛いぞ、恭一。……誰よりも、愛している」
 三城はずるい。今、そのような言葉を口にするなんて。
 三城を抱きしめたい。胸を触れ合わせて、抱き合いたい。そう、強く思うのに。
 彼に押さえつけられている、彼に自由を奪われているという現状も、酷く興奮を誘う。
「もっと、良くしてやる」
「あっ……」
 止まっていた三城の腰が強く律動する。内部の奥深くを突き上げられると、指とはまるで違う部類の快感が、身体中を染めていく。
 刺激をされているのは下腹部だけだというのに。それは全身を痺れされるようで。
 指先も、胸も腹も、頭の中まで快楽に犯されていく。
「やっ……あぁ……あ、はるみさん……」
「恭一、俺だけを、見ていろ……」
「春海さん、だけ……」
「恭一」
 腕を押さえつけられたまま、三城が恭一の唇を奪う。
 もう、まともな思考など薄れていく。
 互いの舌が触れ合うと、それもまた痺れる刺激で。
 腕を固定され、唇を押さえつけられ、ペニスの杭を打ち込まれている。
 ようやく、理解した。
 今は、三城の自由にしかならないのだ。この身体は、三城の好きにされるしかないのだ。
 そう脳裏を過ぎると、興奮が、加速する。
「はっ……もっと……もっと、して……」
「愛してる、恭一」
 ほんの僅かな間離れた唇で三城は囁くと、そこがまた塞がれる。息継ぎの時間すらない。
 唯一自由になる足を三城に絡みつかせた。そうすると接合は深まり、彼のペニスが奥に止(とど)まる。
「動けないぞ、恭一」
「んっ……んっ……」
「聞いていないな……」
「やっ……そこ、好き……」
 無我夢中に、三城を足で抱きしめる。ストロークの長い律動はない。けれど、最奥を突かれると、せり上がる快感は、切なく、泣き出しそうな物になる。
「……だめ……いき、そう……はっ……い、いく……」
「恭一、そんなに、締め付けるな……」
「あっ……あっ……春海さん、好き……好き……もっと……」
「くっ……やはり、今日の恭一は……」
「あっ……」
 もう、何も考えられなくて。
 三城に自由を奪われたのか、三城の自由を恭一が奪ったのか。
 もはやそのような事はどうでも良いのかもしれない。
「やっ……で……でるっ……」
「くっ……きょう、いち」
 両手を押さえつける三城の手に指を伸ばして触れる。出来る限りの力でそこを握り、快感に身を委ねた。
 そうすると、絶頂に駆け上がるのはすぐだ。
 自然と、瞼から涙が零れ落ちた。
「やっ……あっ……春海、さん……」
「恭一」
 熱い物が、頭の先からつま先まで駆け抜けるようだ。
 こんなにも激しい刺激は初めてだという程の弾ける物を感じながら、恭一は互いの腹に挟まれたペニスから射精をした。
「はっ……あぁ……」
「恭一っ」
「んっ……んん……」
「くっ……」
 ガクガクと止められない震え。それは恭一だけではなく、覆い被さる三城も同じであった。
「熱いな、恭一」
「春海さんは……? い、った?」
「あぁ」
「そっか」
 あまりに内部が熱いから、彼の出した物が分からなかった。
「もっと、しよ?」
「そのつもりだ」
 近い距離で笑みを浮かべ合う。
 ようやく離された腕で今度こそ三城の背を抱きしめると、恭一は三城のペニスを内部に残したまま、彼にキスを求めたのだった。


*目次*