やっぱり好きな人・編・21



 今が何時であるのか、もはや解らない。
 重い瞼を持ち上げ、まどろみの中で恭一はぼんやりと隣に横たわる三城を眺めた。
「起きたか、恭一」
「おはよう。春海さん、起きてたんだ」
「さっきな」
 互いに全裸で、素肌にシーツだけを纏う。こちらを向いた三城の腕が恭一の背を抱きしめた。
「ずっと、こうしていたいものだ」
「そうだね」
 三城の胸にすり寄る。暖かくて、心地よい。
 ずっと此処に。それは叶わずとも、週末の間くらいはこうしていたい。
「そういえば、来週だっけ。お客様が来るの」
「ああ。料理は任せる。気取った物じゃ無くて良い」
「そうなの? お義母さんにおもてなし料理を教えて貰おうと思ってるけど」
「母さんな……まぁ、あの人なら良い程度の物も知っているだろうが……俺は恭一の料理ならばなんでも良いと思っている」
「……ありがとう。何か考えてみるよ」
 毎日作っているとは言え、料理の腕は自慢出来る物ではないし、客人、それも取引先の社長に提供するに相応しい、見目麗しい料理となるとより一層だ。
 三城の仕事相手とあって緊張ばかりが募る。けれど、嫌では無かった。
 大切な場面の食事に三城が選んでくれたというのが、どうにも嬉しい。
「春海さん、どんなに忙しくなっても、帰って来てね」
「当たり前だ。恭一の居る場所が俺の帰るべき場所だろ」
「うん」
 胸の中心に、熱を感じて。
 妙な誤解も解けた今、安堵感だけがある。
「春海さん、好き」
「どうした、急に」
「なんだか、言いたくなって」
 昨晩は、確かに刺激的だった。
 恭一自身三城にマンネリを感じていた訳ではないが、あのように印象的なセックスも悪くは無い。
 下着も手枷も、持ち帰り保管するつもりだ。
 また、たまにはあのような行為も良いかもしれない。
「今日はこれからどうするの? チェックアウトは何時?」
「今夜も宿泊する。予定は特に無いが……このままのんびりするのも良いだろ」
「そうだね。僕も、こうしていたい」
「明日はそうだな。秋物の服でも見に行くか。恭一の服を選びたい」
「春海さんのは?」
「俺のはついでだな」
「良いの? 僕なんかより春海さんの……」
「俺がそうしたいんだ」
 まるで有無を言わせないように、背中に回された三城の腕の力が強くなる。
 幸せだ。三城の言葉が、身体が、その腕が、愛されている事を実感させる。
 どうすればその想いを返せるのだろうか。少し考えたけれど、特別な良案が浮かぶ事もなく、恭一は重力に促されるように目を閉じた。
 まだまだ、これからもずっと。果てしない時間を三城と過ごしていきたい。
 いつも感じていた筈だというのに、改めて胸に落ちる。
 愛おしくて堪らないのだと。
 多忙な三城に出来る事は殆どないのならば、せめて笑って彼の帰りを待とう。今はそれで良いのだと、素直に思えた。
「春海さん、キスして?」
「あぁ、何度でも」
 三城の腰へ腕を回しながら、恭一は瞳を細めて三城を見上げる。
 柔らかく微笑んだ彼の口づけは、甘く暖かかった。

【完結】
*目次*