夜の太陽・昼の月・3


「優しそう」なんて「カッコいい」に次ぐ、口説きの常套句じゃないか。

キャバクラだろうがスナックだろうがクラブだろうが、そこの女達に何度言われたか知れない。

そうは解っていても、その少年から言われた「優しそう」の言葉に近藤は柄にも無く動揺していた。

情け無い。

こんな所を組員や系列団体のライバル達に見られでもしたら憤死ものだろう。

「ハァ、、、」

浅いため息を吐き、隣を歩く少年を見やる。

少年は名前を琥珀【こはく】と名乗った。

本名かどうかは知らないが、そんな野暮な事を聞くつもりはない。

年齢も18歳だと言っていたが真偽は確かではなかった。

身長は随分と小さく、160cm前後だろうか。

ハイヒールを履いた女性の方が大きいくらいだ。

明るい所で見た琥珀は、やはり陶磁器のように白い肌に薄茶色の髪をしていた。

髪は肩口にかかる程度に伸びていて、サラサラと零れるように柔らかそうだ。

細い体は華奢という言葉がピッタリで、栄養が行き届いていないようにすら思える。

そしてもう一つ。

琥珀は、左足を引き摺っていた。

よくは解らないが、ヒョコヒョコと身体を揺らすようにゆっくりと歩いている。

思わず手を貸してやりたくなるのだが、何処をどう助けていいのかも解らないので、せめてもと、近藤は琥珀に速度を合わせて歩いた。

それに気づいた琥珀は、30cm近く上にある近藤に瞳を見つめて嬉しそうに笑う。

琥珀の笑みを見るたびに、近藤は「可愛い」と思わずにはいられない。

普段なら10分とかからない道のりが、琥珀に合わせて歩いた為随分と時間がかかってしまった。

だが嫌な気分ではない。

向かったのは、近藤が恫喝する一帯にあるラブホテルだ。

ヤクザの情報網は警察の上をいくと言う。

近藤がホテルに少年を連れ込んだ事など、とっくに噂になっているかも知れない。

いや、「知れない」ではない。

先ほどから携帯電話のバイブがひっきりなしに鳴っているのだ。

発信者を確認したのは最初の一度だけだが、それは組の若頭にしている男からだった。

続く着信もその男からかはたまた別の部下かは解らないが、用件は皆同じで、事実確認の為だろう。

そうと思えば到底電話に出る気分になれるはずもなく、ホテルの一室に入った近藤はスーツのジャケットに携帯を入れたまま脱ぐとハンガーに吊るした。

組において近藤の立場が弱いというわけでは決してない。

組織的な決定権は全て近藤にあるし、誰にも、若頭でさえ有無を言わせるつもりはない。

だが事琥珀の話しになると、近藤は相手に対して強く出れない気がしていたのだ。

理由は自分でも解っていない。

ふと見た琥珀は、早速タオルを持ち風呂場へと向かっていた。

「お湯が溜まるまで待っていてくださいね」

慣れた仕草で準備を進める姿に苛立ってしまう理由もまた、解らないでいる。

   
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