夜の太陽・昼の月・5


琥珀は携帯を持っていないと言う。

ほぼ毎日あの公園のあの場所に座り、一番に声をかけてくれた人と一晩を過ごすらしい。

約束や予約なんかは殆ど無いのだと聞くと、少し安堵を覚える。

短くなった煙草を灰皿に押し付けて消すとすぐさま新しい一本を取り出しながら、近藤は琥珀に数枚の札を渡して言った。

「俺は帰るが、お前はまだ居ていいぞ。一応チェックアウトは9時になっているが、何時でも大丈夫だろう」

「ありがとうございます。、、、これ、多すぎます」

札を受け取った琥珀は嬉しそうにふわりと微笑んだが、明らかに約束よりも多い金額に慌てて近藤を見やった。

「あ?あぁ、サービス料だ」

「困ります、そんないっぱい貰えません」

「金なんざ有って困る物じゃねーだろ?」

「そうだけど、、、でも」

金を多く渡して困られたのは初めてだ。

近藤は興味深く琥珀を見つめた。

水商売や風俗で働く連中を多すぎる程知っているが、その殆どが高収入を得る為にやっているのだ。

後ろ指をさされる事も汚い事も辛い事も、より多くの給与の為だろう。

だが、琥珀は手にした数枚の札を見つめて逡巡し、結局3万円しか受け取らなかった。

多かった金額を近藤に押し付けると、俯いてボソボソと聞きづらい口調で言う。

「もし、良かったら、また次、お願いします」

「、、、、あぁ」

それ以上、琥珀に何かを言う事が出来ず、近藤は大人しく押し付けられた札を財布へとしまった。

琥珀は何の為に身体を売っているのだろう、という疑問が再び持ち上がる。

しかし先ほど聞けなかった事が今聞ける訳でもなく、近藤は想いを振り切るようにため息を吐き玄関口へと向かった。

見送りの為に着いて来た琥珀は、儚げな笑みを浮かべて見せる。

「、、、、さよなら」

「あぁ、またな」

近藤は身を屈めて琥珀の額にキスをすると、足早に部屋を出て行った。

当然と言うべきか、琥珀が追って来る事はない。

後ろ髪引かれる思い、というのを始めて身を持って経験したのだった。



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ホテルを出ると、そこには厳つい男が数名立っていた。

「お疲れ様です」

一人の男が頭を下げると、後ろの数名も頭を下げる。

やはり待っていたか、とため息を吐きながらも近藤は何を説明する訳でもなく、一言言うと先頭に立って歩き出した。

「行くぞ」

時刻は深夜1時過ぎ。

泥酔客達を縫うように、近藤はネオン街へと消えて行った。

   
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