夜の太陽・昼の月・6


翌日から近藤は頻繁に琥珀を買うようになっていた。

最初から2日と置かずに琥珀の元へ通っていたのだが、ある日一足遅くサラリーマン風の男に目の前で琥珀を持って行かれてからは毎日通うようになった。

その時、悔しさと嫉妬感を並々ならずに感じたのだ。

「ヤクザだ」と言って、その客から琥珀を掻っ攫って行く事は容易だったが、何故かそれはしたくなかった。

琥珀に対して、必要以上に「ヤクザ」である事を強調したくなかったのかもしれない。

近藤は、自分が「お願い」した事も、多くの人にとっては「脅し」になりえる事を理解している。

それ故に、琥珀を「予約」しなかったのは、琥珀が嫌になればいつでも近藤から逃げ出せるようにという配慮からだ。

会う時間はだんだんと早くなり、近頃では夕方6時頃になっていた。

そんな時間だと流石に競う相手もなく、ここのところ毎晩、琥珀は近藤の物となっている。

献身的過ぎるサービスも、少しは減っていた。

元々近藤は奉仕をされるよりも、自分から攻め立てたいタイプなのだ。

琥珀は最初こそ「与えられる」事に戸惑っていたが、近藤のテクニックに掛かれば身を任せずにはいられなくなったようだ。

琥珀が近藤の上に跨る事も減り、徐々に一般的なSEXの形になりつつあった。

そんなある日。

その日は夕方から深夜まで待っていたのに琥珀は公園に訪れなかった。

「待っていた」といっても、近藤が勝手に待っていただけで、もちろん約束などしていない。

近藤より早くに誰かと消えたのだろうか、とも考えたが、そう思うと酷く胸糞が悪かった。

出来る事なら琥珀を自分だけの物にしたい、と言う気持ちは、近藤自身直視しない訳にはいかないほどに膨れ上がっている。

昔の遊郭なら「身請け」なんてものもあっただろうが、全くの個人商売である琥珀にはそんな制度はない。

それどころか、琥珀には自由で居てもらいたいとすら思っているのだ。

矛盾する心が近藤を苦しめていた。

「人の心は金では買えない」使い古されたセリフだが、説得力はある。

組長という地位についてからは、それこそ金に物をいわせてやりたい放題してきたが、琥珀の人生までをそうしたいとは到底思えない。

次の日も、近藤は早くから公園へ出向いた。

インテリを気取っているような、洒落物の若頭が「仕事をしろ」と言うが「煩い」と恫喝して出てきてしまった。

奴は怖いもの知らずと言うか、近藤を敬ってはいるし自分がその地位を取って変わろうとは思っていないようだが、物事をはっきりと言うタイプなのだ。

「若頭」よりも「秘書」といった肩書きがしっくりくる。

昔堅気の組長などであったら何度となく殺されていたかもしれない。

近藤がそうしないのは、奴が言うだけの仕事をするからだろう。

今や佐原組に無くてはならない人物である事は間違いない。

物思いに耽りながら公園を歩くと、すぐに目的の場所に辿り着いた。

そこに琥珀の姿はまだなく、辺りには女子高生もカップルも居ない。

冬も本番が近づく低い空が、頭上に寒々と広がっているばかりだ。

どれぐらい空を見上げていたのか。

「、、、あ、彰さん、、」

ふと気がつくと、琥珀が傍らに立っていた。

一日会っていなかっただけなのに、「やっと会えた」という気分になってしまう。

綻ぶ顔を止めさせたのは、いつもと違う琥珀の様子からだった。

顔は赤く、瞳は虚ろだ。

季節に似合わない薄手の長袖シャツに身を包んでいて、微かに震えている。

「どうした?」

近藤は慌てて立ち上がり琥珀の細い肩を抱いた。

「どうも、、、しないです」

「嘘つくな、っおい、凄い熱じゃねーか」

近藤が触れた琥珀の首筋は、恐ろしく熱かった。

「大丈夫、、、」

ふらふらになりながらも尚も言い続ける琥珀に、近藤は勢いのまま怒鳴りつけてしまっていた。

「そんな身体で来てるんじゃねえ!帰って寝ろ」

近藤とて、琥珀と居たくない訳はない。

会いたくて会いたくて仕方がなかった程だ。

だが琥珀の身体を思うと、「絶対安静」という言葉しか出てこない。

そんな近藤の気持ちを知ってか知らずか、当の琥珀は頭を上げるのも辛そうに、俯いたまま頭を振ると呟くように言った。

「帰ったら、、、殴られるから」

「え、、、?」

一言を残すと琥珀はその場に崩れ落ちてしまった。
   
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