夜の太陽・昼の月・9



その晩、近藤と琥珀は初めて一緒に眠った。

キングサイズのベッドは大人が数人寝れるほどの広さを誇ってはいたが、二人は身を寄せ合っていた。

近藤は琥珀を腕の中に閉じ込めて、琥珀は近藤の広い胸に頬をすり寄せる。

十分な食事と薬のせいかも知れないが、琥珀はすぐに眠りについた。

安定した寝息を聞きながら、近藤もまた眠りへと落ちていった。

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ピンポーン・ピンポーン・ピンポーン

連打というに相応しいまでにインターフォンを何度も打ち鳴らされ、近藤は起された。

最悪の目覚めだ。

訪問相手の目星はついている。

これで待ちわびた結果でなければ沈めてやる、と内心悪態をつきながら、近藤は琥珀と共に眠っていたベッドからそっと抜け出した。

ガチャリ

小さな音を立てて扉を開けると、果たしてそこには佐伯が薄ら笑みを浮かべて立っていた。

「おはようございます」

「お前、鍵持ってるだろ」

「えぇ、でも勝手に入っては不都合があるかと思ったので」

何が「不都合」だ。

嫌味ったらしいにも程が有る。

だが近藤は、ニコリと笑う男に言い返す言葉が見つからないでいる。

この佐伯という男は組のブレーンであり、唯一近藤に物を言える人物だ。

それは「進言」などというものではなく、キツイ嫌味な事が多かった。

そして、厳つく男らしい近藤とは対照的な、細く女性的な美貌の持ち主でもある。

だがそこには柔らかさなど微塵も無く、「クールビューティー」「氷の微笑」といった言葉がぴったり当てはまった。

「さっさと報告しろ」

近藤は不機嫌さを隠しもせずに言う。

「三原一雄、覚せい剤及び大麻所持の現行犯で逮捕。自分で使用する目的だった事は明白で、使用は常習的。所有していた量からも懲役刑は免れないかと思われます。短くても4年、長ければ7年は出てこられないでしょう。」

暗記をしていたのか、何かを読んでいるかのようにスラスラと言ってのけると、銀縁フレームの眼鏡を中指で押し上げる。

得意げな笑みを浮かべ、胸の隠しから一枚の紙を取り出すと近藤へ渡した。

「逮捕状のコピーです」

「よく手に入れれたな」

「組長の人柄のおかげですよ。」

「どうだかな」

取って付けたようなお愛想を一笑に付し、近藤はそれを開いて見た。

そこに書かれていたのは、今佐伯が言った内容をもっと事務的に書いたものだ。

あて先は琥珀の父。

間違いは無かった。

「相変わらず、仕事は速いな」

「これで組長がまともに仕事をする気になってくださるなら、私の一晩の徹夜など何でもない事です」

ニコリと微笑みながら嫌味を言うが、そんな事で負ける近藤ではなかった。

「解ってるよ。だが、まだ一仕事残ってるからな。それが終わったらな」

「組長!」

佐伯の怒号をよそに、近藤は扉を閉めると室内へと戻った。

言葉を選ぶのはあまり得意ではない。

だがここが正念場だと、気合を入れたのだった。


   
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