三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・13



大丈夫かな、と思ったのだが、やはり幸田は道に迷っていた。

「どうしよ、、、」

自慢じゃないが(本当に自慢でもなんでもないのだが)幸田は方向音痴である。

まだ自販機にも辿りつけていない。

自覚症状もきちんとあった。

だがいくら入り組んでいるとはいえ、たかだか旅館でここまで迷うとは思わなかったのだ。

携帯電話は持って来ていないので、三城に助けを求める事も出来ない。

「、、、行き止まりだ、、」

はぁ、と深いため息を吐いて幸田は踵を返した。

今頃三城が幸田を探しているかもしれない。

それならこの場で動かずに待っているのも手だ。

「本当、どうしよ」

無駄に神経が尖ってしまっているのか、無性に疲れた。

やはり此処で待とう。

何度目とも解らないため息と共に、幸田は横にあった襖に手を付いた。

カラッ

開けるつもりなんて毛頭無かったのだが、施錠がされていなかったのか開いてしまった。

幸田は慌てて手を離した。

そこは他人の部屋だろうし、いくら迷ったからと言って、身知らずの人の部屋に押し入るまでではないだろう。

なんといってもここは限りある旅館の中だ。

閉めなくては、そう思ってもう一度襖に手をかけた時だった。

何か、中からキツイ臭いがした。

覚えるある臭いだ。

思わず眉を寄せてしまいそうになる、篭った臭い。

幸田は無意識のうちに襖を大きく開けた。

「ひっ、、、」

そこに有った臭いの原因は、鮮血に塗れて仰向けに倒れている男だった。

「あっ、、あぁ、、、」

その男の、すでに息絶えているとしか思えない顔を見た瞬間、幸田はパニックになりながらもその場を走り出していた。

誰かに、三城に言わなければ。

何処をどう走ったのかなんて覚えていない。

不思議なもので、あれほど迷っていたというのに今度はすぐに幸田達の部屋に辿り着いた。

飛び込む勢いで幸田は部屋に入った。

「おい、恭一何処行って、、、どうした」

幸田が戻った事に気がついた三城は、一瞬責めるような口調だったが幸田の真っ青な顔を見るとすぐに立ち上がり、今にも倒れそうな細腕を抱いた。

「どうした、何かあったのか?」

「三城さん、、三城さん、澤野さんが、、、」

顔面蒼白の幸田が、縺れる舌で呟く。

「澤野さんが、死んでた、、、、」

「なんだって?」

やっと聞き取れる程度の幸田の声に、三城は驚きの声を上げた。

「血まみれで倒れていて、、、」

「それはさっきの男だったんだな?」

「はい、、、血まみれ、だったけど、毎日見ている顔だから、解ります」

相変わらずぼそぼそと小さな声だったが、幸田もようやく落ち着きを取り戻し始めたようだ。

幸田は三城に促されるままに座布団の上に腰を下ろした。

三城もまた、隣に膝をつく。

「何処で見たんだ?」

「解りません、、、迷って、行き止まりの近くで。走って戻ってこれたけど、本当に解らなくて」

両手で顔を覆う幸田の背を、三城がそっと撫でた。

「もう、いい。恭一は休んでいろ」

一際優しげな三城の声が聞こえ、幸田はコクリと頷く。

やはり、頼りになり過ぎるほど頼りになる恋人だ。

幸田から手を離した三城は立ち上がり、すぐに厳しい顔になると部屋を出て行った。



 
*目次*