三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・14



───殺すつもりなんて、なかった。

今の生活を守れれば、それでよかったんだ。

あいつが悪い。

僕の事を勝手に調べて、幸せな生活を奪おうとした。

幸せな生活?

本当にこれがそうなのだろうか?

守るべき、今の生活ってなんだったんだろう。

閉塞的な世界、プレッシャーに押しつぶされそうな仕事、隠された性癖。

そんな物が僕の「守るべき物」だったのだろうか。

なんて陳腐で、どうでもいいものなんだ。

子供の頃夢見た生活ってなんだっただろうか。

少なくとも、血まみれの手を眺めている自分なんかじゃなかったはずだ。




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何事にも迅速な三城の今回の対応も正に「完璧」だった。

幸田の話を聞き、まずは(もちろん道に迷う事なく)フロントへ行き事情を説明した。

すぐに幸田の話を信じた三城とは違い、旅館側は半信半疑ではあったようだが一応は話を聞いてくれたそうだ。

時間も時間とあり女将は忙しいと言われ(戯言に付き合っていられないという事だろう)、中年の仲居が3人ほどが現場へ向かう三城に付き添った。

幸田の僅かな話を頼りに向かったのは、この旅館のVIPルームである特別室だ。

一般の客室と宴会部屋を過ぎ、特別室専用の宴会部屋を過ぎた頃、辺りには明らかな血の臭いが漂っていた。

死体があるかはまだ解らないものの、そこに「何か」があるのは明らかだろう。

唯一の男である三城が先陣を切ってその部屋を覗いた。

「、、、っ」

そこには幸田の証言通り、おそらく澤野と思われる男が横たわっていた。

キツイ悪臭に眉を寄せながらも、三城はその身体に近づく。

念の為にと澤野の手首に触れたが、当然のように鼓動は無く、息絶えている事が知れる。

三城の記憶力は常人のそれを上回るのだが、頭部から首にかけてが血まみれであっても、一度見たその顔が澤野だと確認が出来た。

「、、、どうですか?」

遠慮がちに尋ねる仲居に、三城は至極そっけなく答える。

「死んでいますね。連絡は警察だけで結構です。お願いできますか?」

「あっ、はっはい」

部屋の外で仲居達が息を飲むのが聞こえた。

誰かが「信じられない」と言ったが、中を確認する勇気はないようだ。

仲居の一人が、死体を確認する無く来た道を走り去って行った。

警察への連絡の為だろう。

膝を突き死体を見ていた三城が立ち上がる。

残りの二人の仲居はオロオロと所在無く立ちすくむだけだったが、

「旅館の責任者に報告を」

との三城の助言に我を取り戻し、急いで向かったようだ。

「、、、くそ、新婚旅行だっていうのに」

一人になった三城は死人に向かって恨めしいとしかいいようのない視線を投げつけ、深くため息を吐いたのだった。



 
*目次*