三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・15



新年早々、運が悪いにも程が過ぎる。

大して知りもしない人物の不幸よりも、最愛の「嫁」と自分の楽しみを邪魔された事に腹が立つ。

そしてそれ以上に、その「最愛の嫁」を苦しめる結果に至った殺人犯が憎い。

なんとも自分勝手な思考回路ではあるが、結局憎むべきは殺人犯だという真っ当な考えに辿り着き、諦めにも似たため息を吐いた三城は携帯電話を取り出した。

辺りに誰も居なくなった事を確認し、一本の電話を掛ける。

、、、、、ピッ

3コールが鳴りきらない内に、回線が繋がった。

「なんだ、こんな時間から」

繋がるやいなや放たれた声は、不機嫌以外の何物でもない。

早朝6時頃とあっては仕方がないのだろう。

電話の相手は掛けたのが三城と解ってたのか、名乗りもしなければ逆に相手を確かめる事もしない。

三城もまた自ら名乗る事はなかった。

「悪いな、寝ていたか?」

死体の前であるという場にそぐわないだるそうな態度で壁にもたれかかり、悪いとは到底思って居ないようないつもの軽い口調で言ってみせる。

ポケットから買ったばかりの煙草を取り出した三城は、開封をし一本を口に咥えた。

寒々とした廊下に、煙草の煙が立ち上がる。

「寝てねーよ。当直でな。」

電話の相手は、疲れたようなガラガラ声でぶっきらぼうに言った。

「そうか、それは良かった。緊急で頼みがあるんだ」

「何だ?」

「良かったはねーだろ」と小さく呟きながらも、電話の相手は先程よりは真面目な声で三城の言葉を待った。

「知り合いの知り合いが殺された。」

さらりと、さも何でもない事のように三城は言ってのけると、やはりだるそうな態度で紫煙を天井へ向かって吹きかけた。

今の三城にはそれ以外の感情はないのかも知れないと思わせるほどの態度の悪さだ。

「何だって!」

相手は抑えた声で驚いて見せたが、冷静さを事欠いた様子はない。

「俺の知り合いは第一発見者。犯行を疑われても仕方が無いかと思う」

「まぁ、単純に考えたらな」

「へたしたら俺も疑われかねない」

「あ?何でだ」

「知り合いっていうのが、恋人だから」

「、、、なるほどね。それで捜査からお前らを外せ、と?」

明らかに「面倒だ」と思われる声になり、ため息までもが受話器の向こう側から聞こえてくる。

「あぁ、お願いしますよ、警視さま」

三城は冗談でも言うかのような猫撫で声で言い、煙草の灰をその場に落とした。

やはり態度が悪すぎる。

もしもこの場に幸田がいたならば、三城を一喝するだろう。

いや、幸田がいたのなら三城がここまでの態度を取るはずがない、とも言えるのだが。

「、、、気持ち悪い声出すな。そんな事言ったってなぁ、俺が捜査に加わらないと権限なんて、、、、」

困ったような口調で相手は「無理」だ言った。

だが、すぐに周囲の人間から声をかけられたらしく、電話口から口を話すとそちらと話をし始めた。

「は?え、殺し!?解った、すぐ向かう。」

先ほどまでとはまるで違う、固い口調と声が受話器越しに三城の耳にも微かに聞こえる。

「どうした?」

「もしかして、お前今旅館か?」

「よくわかったな」

三城が何かを察したようにニヤリと笑った。

「待ってろ、今すぐ俺が会いに言ってやる。」

「あぁ、待ってるよ」

やけくそに言われ、通話は切れた。

ツーツーと鳴るばかりの受話器に向かいもう一度ため息を吐くとそれをポケットに戻し、短くなりつつある煙草を見て小さく呟く。

「恭一に見つかったら怒られるな」

先ほど自分で落とした灰を取り出したティッシュでふき取り、三城は煙草が燃え尽きる前に、と急いで部屋を目指したのだった。



 
*目次*