三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・16



一人になった幸田は、「とりあえず落ち着かないと」と座卓の上に置きっぱなしになっていた急須で茶を入れた。

出がらしではあったが、元々飲食物にこだわりの無い幸田にはその味の変化など殆ど解っていない。

「ハァ、、」

爺くさいとしか言いようの無い声を出し一息吐くと、極度の緊張状態が緩和された気がする。

冷静を取り戻した頭の中には、先ほど見たばかりの澤野の姿が蘇った。

26年生きてきて、死体くらい見たことはある。

両親の死の時も、凄惨な事故だった故に綺麗な身体ではなかった。

昔見た、癌と老衰で亡くなった祖母の死体は正に「眠るように」安らかだった事を思えば、三人の死体は「似ている」のかもしれない。

「罰当たりだな、、、」

今しがたの自分の考えを首を振って否定し、湯飲みに残っていた茶を飲み干した。

もう一杯、と急須から湯のみに注ぎ、幾分ぬるくなった茶を口に運ぶ。

澤野は誰が殺したのか。

あれは本当に澤野だったのだろうか。

幸田が澤野についてグルグルと答えの出ない思考に迷い込んだ頃、三城は戻って来た。

三城は旅館で朝を迎えたばかりとは思えないほどに、きちんと洋服を着込んでいる。

だが、部屋に入るなり灰皿に近づき灰を落とす姿を見ると、幸田は無意識にため息を吐いていた。

煙草を吸うのが嫌だと言う訳ではないのだが、何かが引っかかったのだ。

「もう直ぐ警察が来るだろう。服に着替えておけ」

三城は澤野の、死体の事については何も言わなかった。

という事はやはりアレは澤野で間違いがなく、死んでいたのだろう。

少しでも幸田の思い違いがあるなら、すぐさま訂正してくれるはずだ。

幸田は胸に重い物が圧し掛かる錯覚に陥る。

三城は幸田の隣に腰を下ろすと、その肩を抱き寄せた。

「あの、これじゃ着替えれないんですけど」

着替えろと言ったのは三城なのに動けない、と幸田は遠慮がちに口を開いた。

「あぁ、そうだな」

だが三城は幸田を放そうとはしなかった。

「、、、三城さん?」

「言いたくないなら、話さなくていいからな。俺がついている」

「三城さん?」

耳元でそっと囁かれは言葉に、幸田は微かに目を瞠る。

「何を」と、その言葉の意味を聞こうと幸田は唇を開きかけたが、遠くからサイレン音が聞こえると三城は、

「見てくる、着替えておけよ」

と言って立ち上がり、再び部屋を出て行ってしまった為、何も答えを得る事が出来なかった。



 
*目次*