三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・17



───警察が来ると言っていた。

僕を捕まえに来るのだろう。

捕まるのか?

そんな簡単に、今までの生活が変わるのだろう。

どこで僕は間違えたのか。

考えてもわからない。

コンコン──

ノックの音が聞こえる。

「すみません、よろしいですか?」

知らないだみ声が聞こえると、僕は妙に胸の鼓動が静まった。

「はい」

落ち着いた声で返事をすると、立ち上がり襖へと向かう。

襖を開ける前に携帯を取り出した僕は、メモリのさ行を呼び出すと、一件をデリートした。


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ガラッ

幸田が襖を開けると、一人の男が立っていた。

見るからに「刑事」といったイメージそのものの、よれたスーツとシャツを着て険しい顔をした中年の男性だ。

「第一発見者の幸田恭一さんですね?」

「あ、はい」

「青梅警察署の福田【ふくだ】です。少々お話をお聞かせいただけますか?」

「警部」と書かれた警察手帳を見せながら福田と名乗った刑事は、疑問系であるにも関わらず有無を言わさない口調で言った。

幸田とて何も疚しい事がないので拒否をするつもりは毛頭なかったが、こうもキツイ雰囲気だと気後れがする。

「わかりました。」

三城に言われたとおり洋服に着替えていた幸田は、頷くと福田の後に続いた。

自分が見た物や出来事をただ話すだけですぐに終わる、そう思っていた幸田が福田に連れてこられたのは、客室の一つだった。

「そこに座ってください」

幸田達の部屋にと似たような間取りの一室で、中には数人の男性が居た。

皆刑事なのだろう。

壁際に立ち一様に険しい面持ちをしている。

幸田は誰にとなく会釈をしながら中へ進み、座卓の前に進められると腰を降ろした。

福田は幸田の前に座ると、部屋に居た若い男性が手渡した書類を捲りながら、挨拶もそこそこに口を開く。

「貴方が第一発見者で間違いないですね」

「はい、多分」

「多分?」

深く考えずに言った言葉に福田の眉は吊り上がり、幸田は慌てて言葉を足した。

「僕より先に誰かが見たかは解らないので、、、、」

「なるほどね、、、」

福田はギロリと幸田を見ると、手にした書面に視線を落とした。

いたって居心地が悪い。

ここが警察署の、所謂「取調室」でなく、本当に良かったと幸田は内心ため息を吐いた。

「で、、、貴方と殺された澤野さんは同僚だったと。」

「はい、予備校で教師をしていて。」

「ここには別々に宿泊予約をしていますが?」

「はい、偶然一緒になったんです。僕も廊下で会ってビックリして、、、」

しどろもどろに答える幸田に、福田はあからさまに疑わしげな視線を向けた。

それも仕方が無いとは思うが、幸田はますます俯いてします。

「偶然?」

「、、、はい、偶然、です」

そんな事がにわかに信じられ無い事は三城の反応を見ていても解るが、本当に「偶然」なのだから仕方が無い。

「本当に偶然なんですか?」

「本当です。」

「じゃぁ、職場でこの宿が話題に上った事は?流行っていた、とか」

「無い、です」

そりゃそうだろう。

話題に上るほどメディアに取り上げられていた訳でも無いし、流行れるほどお手ごろな価格では無い。

三城はいざ知らず、極平均的な給与で働いている幸田達が訪れるには難しいくらいだろう。

そんな場所に澤野は何故いたのか。

今更な疑問に幸田は首を捻った。

「どうしました?」

「いえ、、、どうして澤野さんはここにいたのかな、って」

「それは我々も知りたい事ですよ。」

福田の盛大なため息を前に、幸田は「そうですよね」と乾いた笑いを浮かべてしまった。



 
*目次*