三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・18



旅館の玄関口が開くと、三城は苛立った声を発しながら入って来た人物に歩み寄った。

「遅いぞ」

「仕方ないだろ?これでもサイレン鳴らしてブ飛ばして来たんだ」

頭をガシガシと掻き、だるそうな雰囲気の男が三城の傍らに立つ。

男の名前は、室町大樹【むろまち・だいき】。

三城とは大学の同期だった。

とてもそうとは見えないが、室町は国家1種のキャリアだ。

仕草や態度は粗暴とも言えるのだが、皺一つ無いシャツとパリッとしたスーツを着こなした、なんともギャップのある男だった。

そして、その「ギャップ」はもう一つあった。

身長は三城と同じくらいだが、身体つきは三城よりもより一層しっかりとしており鍛え上げられているのがわかる。

だが、顔は女性的な美人なのだ。

キツイく吊り上がった目と不機嫌そうに下げられている眉と口角をしているが、バランスの取れた面持ちは刑事などにしておくにはもったいないほどに整っている。

適当に物事をこなしていそうにも見えるが、28歳という異例の若さで警視まで上り詰めた手腕は驚くべきものなのだろう。

「で、恋人さんは?」

ロビーに置かれた、和風の中に妙に浮いているテーブルセットのソファーに座りながら室町は三城を見た。

ポケットから煙草を取り出し、火をつけると天井に向かって煙を吐く。

すぐに現場へと向かう気は無いようだ。

それを見た三城もまた、室町の向かいへ座った。

「さっき来た刑事が、第一発見者を事情聴取するって言ってたから今頃受けてるんじゃないか?」

「へぇ、素直に行かせたんだな」

「仕方ないだろ、あいつは行くなって言っても行くだろうしな」

「よくご理解の事で」

軽口を叩き合いながら、三城も煙草を咥える。

焦ってもどうとなる事で無いと解っているのだろう。

お互い口を開かないまま、黙って煙草を吸った。

二人の頭上に白い雲が出来上がる。

「室町警視ー、来てたんですか?」

二十歳そこそこの、若い刑事らしい男が声を張りながら室町に向かい走ってきた。

顔見知りなのだろうか。

ソファーにもたれ掛っていた身体を起した三城がその男に視線をやる。

若い刑事は申し訳程度に会釈を返した。

「今行こうと思ってたんだ」

灰皿に煙草を押し付けて消しながら、いけしゃーしゃーと室町は言ってのけると、慣れた様子で手櫛で髪を整える。

元々フワリとした猫ッ毛の彼の髪はその程度でもそれなりに整い、スーツの襟を直すと立派な「キャリア」に見えなくも無い。

(などと言えば室町が気分を害する事は明らかなので三城は言わないだろうが)

「あぁそうそう。まだ、お前らの「関係」は言ってないからな」

立ち上がった室町は、思い出したように三城を振り返ってそう言うと若い刑事に案内を頼んでその場を離れた。

「それはどうも」

聞こえているかも定かでない室町に向かい、三城は片手を上げながら適当に言い、短くなるまで煙草を吸っていた。



 
*目次*