三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・19



「ですから、迷子になって、偶然あの場所に行って、」

「また「偶然」ですか」

「はぁ、、まぁ、、」

幸田と福田のこのやり取りは何度と繰り返された。

鈍感だ、ずれている、と言われる事の多い幸田だが、これは疑われているという事なのだろうと薄々気づく。

冗談じゃない。

自分は正真正銘「偶然」この宿に来て、「偶然」迷子になったんだ。

こんな入り組んだ構造をした旅館じゃなかったら迷子になんてならない。

反論を口にしようとしたとした時、襖をノックする音が聞こえた。

「警部、警視庁の警視がお見えです」

「くそ、、、入ってもらえ」

小さく悪態をついた福田は、座卓の端に座りなおし、今までよりも険しく不機嫌そうな表情になった。

「おはようございます。同席の了承ありがとうございます」

カラリと襖が開けられて入って来たのは室町と若い刑事だ。

室町は先ほど三城と相対していた時が嘘のように、キリリと引き締まった顔をしすましており、今まで福田が座っていた場所に座る。

一緒に入ってきた若い刑事は他の刑事と同じく壁際に立った。

「初めまして、警視庁の室町と言います」

「あ、初めまして、幸田です」

こういった場面で挨拶を返すものかどうかは定かではないが、幸田は反射的に頭を下げていた。

根がまじめな彼らしいと言えなくも無い。

「なるほどね」

興味津々といった視線を注いだ室町は、一人納得したようにウンウン頷き、若い刑事から渡された、福田が手にしているのと同じ書類を眺めた。

幸田は「何がなるほどだ?」と首を傾げたが、答えを得る前に室町が口を開いた。

「もう一度、初めからお話をお聞かせ出来ますか?」

ニコリと口角だけを上げて作った笑みを浮かべた室町の言葉に、幸田はため息混じりに頷いた。

「、、、、偶然、ね」

一通り聞き終わった室町の反応も福田と大差ない気がしする。

だが、室町は小さく

「そんな感じだな」

と呟くと、スッと立ち上がった。

この言葉の意味もまた、幸田は聞く事が出来ない。

「室町警視?」

「すみませんが、他の方にも簡単に話を伺ってきますので。失礼します。」

微かに驚く福田を余所に、室町は感情の読めないクールな面持ちで一礼をすると退室した。

室町のいなくなった室内は、わずかに気が緩んだように思える。

場が張り詰めていたのだろう。

警察は実力と縦の社会だと聞く。

年は福田の方がずいぶんと上に思えるが、室町の方が立場は上なのだろう。

「貴方はどうしてこの宿に宿泊を決めたんですかね?」

室町がいなくなり盛大なため息をついた福田は、室町が現れる前にしていた話題を再び口にした。

「予約は貴方ではなく、一緒に来ている三城さんの名前になっていますが?」

「あ、、、それは」

「どうして、ですか?」

どうして、と聞かれても「三城が選んだから」としか答えようがない。

畳み掛けるような福田の質問は続く。

「こんな正月早々に男性お二人で温泉宿に宿泊ですか?しかもこんな高級旅館に?」

幸田の胸がドキリと鳴った。

「少し調べただけでわかりましたが、幸田さんと三城さん。夏ごろに起こした交通事故の加害者と被害者ですよね。幸田さんが泥酔の過失。三城さんが車。でも保険会社からも保険を適用していない。警察の届出はしているが裁判はおこしていない。なのに、実質の被害者である三城さんが貴方の世話をしていたのは何故でしょう?」

口を挟む隙さえ与えず、福田は一気に言う。

周囲の刑事の視線も痛いほどに感じた。

「それは、、、」

保険の適応は、三城が選んだ事だし(結局幸田の治療費の一切は三城が持ったのだ)、世話をしていたのはお互いが惹かれあっていたからだ。

だがそんな事を簡単に口に出来るわけがない。

疑われているのだろうか。

二人の「関係」を。

「それに幸田さん。貴方、三城さんからいろいろと受け取ってるみたいですね。ブランド品とか貴金属とか。」

それは三城が勝手にした事だ。

勝手に、と言えば三城に申し訳ないし、幸田も迷惑だと思っているわけでは決してないのだが、幸田が三城にねだった事は今まで一度もない。

全くの三城の好意(と趣味)からなのだ。

「もしかして、貴方、三城さんを、、」

続けられる福田の言葉を、幸田は息を飲んで待った。



 
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