三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・2



「、、、ハァ」

助手席に座った幸田は疲れているとしか言いようのない面持ちでため息を吐いた。

楽しみにしていた旅行当日の朝だというのに、表情に覇気が無い。

それというのも、前日三城の実家に挨拶に行った後、激しい攻め立てにあっていたのだ。

いつもならば昼過ぎまで寝て回復を待つのだが、今日はそんな訳にもいかない。

ただでさえ時間の少ない旅行なのに、これ以上時間を押すのは三城に申し訳がないと思っていた。

今から行く宿を探して予約を入れたのは三城だ。

「旅行に行こう」と言い出したのは12月も終わりの頃で、まさかそんな時期から予約が取れるとは思っていなかったが、三城はあっさりと宿を決めてきた。

不思議に思った幸田が見てしまった、宿の予約確認のメールに記されていた一泊の価格は目を剥く物だった。

正に「新婚旅行」という名に相応しのかもしれない。

そりゃこんな宿なら空きがあっても納得出来るだろう。

何せ一泊の宿泊料がサラリーマンの平均的な月収ほどするのだ。

かくゆう幸田の給与もこれくらいだろう。

「、、、」

今更「行かない」とは言えないが「行けない」なら言えるだろうか。

三城ならば当然のように「金の事など気にするな」と幸田に出費を求めないとは思う。

だがそれを解っていてもソコに甘んじるのは男としてどうだろう、とも思うのだがこんな金額を「払う」とも言えるはずもない。

逡巡する幸田に三城は、「新婚旅行は夫が出すべきだ」と取り合わず、この日を迎えたのだ。

それで黙ってしまう自分もまた、情けない。

とは言ったものの一旦決まってしまうと、三城と出会わなければ足を踏み入れる事もないだろう高級宿への宿泊は、幸田にとって楽しみ以外の何物でもない。

逸る気持ちから、どんな所だろうとインターネットで調べもしたが、あまり情報を多くは仕入れられなかった。

それもまた楽しみな気持ちに拍車をかけている。

それなのにこんな顔をしていては申し訳ないと、気持ちを入れ直すかのようにもう一度ため息を吐き、幸田は姿勢を正した。

隣で運転をする三城は今日も元気だ。

同じ回数絶頂を迎えただろうにこの違いは納得が出来ない。

基礎体力の違いだろうか。

いくら食べても太らない体質で筋肉も付きにくい幸田は、三城の体が羨ましかった。

今年は筋トレでもしようかな、と密かに目標を立て一人頷く。

件[くだん]の「知る人ぞ知る」という言葉がぴったりのその宿は、東京から車で1時間半程の所にあった。

出発時間から計算して、間もなく到着するだろう。

そんな時分まで鬱陶しい面持ちだった自分が恥ずかしい。

「楽しみですね。」

ようやく晴れやかな笑みを浮かべた幸田は、三城の腕にそっと触れた。

「あぁ、そうだな」

前を向きながら同意を示した三城もまた楽しげに目を細めている。

都内のシティーホテルには何度か宿泊もした事があるが、「旅行」は初めてなのだ。

一生の思い出になるだろう「新婚旅行」に心を躍らせながら、都会とはまるで違う風景を窓の外に見る。

この旅行が、ある意味「一生の思い出」となるとは、二人は当然のように知る由もなかった。



 
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