三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・20



「お話を聞く」為に用意された部屋を出る室町を、三城は待っていた。

三城を見つけた室町は驚いたように一瞬目を見張ったが、直ぐにニヤリと笑いポケットから煙草を取り出して咥えた。

その表情に、先ほどまでの「出来る警視」の面影はまるでない。

「お前の好きそうなタイプだな、恭一さん。」

「可愛いだろ?」

「あぁ、思わず苛めたくなる。」

くすくすと笑うような口調で言う室町を、三城は睨みつけながら低く唸る。

「恭一に手を出したら殺すぞ?」

「ははっ警察の人間を脅すなんて、怖いねぇ」

「ふざけてないで状況を教えろ」

「はいはい」

僅かだがまじめな面持ちになった室町は、紫煙を吐き出しながら思案するように眉を寄せた。

殺人現場へと向かうために歩き出し、三城もその後を追う。

「疑われても仕方が無い状況、だな」

「どうゆう事だ」

「恭一さんが、此処で被害者と会ったのも、遺体を発見したのも「偶然」だって言うんだよ。その上、書類を見る限り、犯行が可能で被害者と繋がりがあるのは恭一さんしか居ない。今回は無差別殺人の可能性が低いしな」

確かにそれだけを聞けば幸田が疑われても仕方がないだろう。

だが三城がそれを納得するはずもなかった。

「そりゃ本当に偶然なんだから仕方がないだろ。それともお前も疑ってるのか?」

今にも掴み掛かりそうな勢いで三城は室町に食ってかかる。

「俺は疑ってねーよ。恭一さん、どんくさそうだし、嘘吐くの下手そうだし。それに、恭一さんが被害者を殺害したいのだったらもっと別な場所があっただろう。こんな「自分を疑ってくれ」みたいな場所じゃなくてさ。」

悪口に思えなくもないセリフにも三城は何も言わなかった。

それ以上に、後半の言葉に深く頷く。

「ここを予約したのは俺だ。恭一が澤野に教えた可能性が無くもないが、、、」

「だろ。不自然なんだよ。でも、他の刑事はどうだろうな。俺と違って人柄なんてみないだろう。みたとしても、恭一さんが「本当の事」を喋らなかったら、無駄に疑いが大きくなるだけだ。」

室町が言う「本当の事」に思い当たった三城は、口角を下げて顔を反らした。

言うだろうか、恭一は。

もしも自分ならば迷わずに言う。

会社に知れたとしても、そんな事くらいで立場が揺らぐような仕事をしてきたつもりは無い。

だが、幸田はどうなのだろうか。

今ここで話せば、予備校にも知れるかもしれない。

自分に殺人の容疑が掛かるとなるならば、さすがに話すだろうか。

三城が言葉無く、ただあてつけのように室町をにらみ付ける。

ポケットから取り出した携帯灰皿に灰の長くなった煙草を押し込んで、室町は黄色いテープが貼ってある一帯の前で立ち止まった。

「そんな怖い顔すんなよ。ま、とりあえず現場見て来るわ。他にも容疑者出てくるかも知れないしな。」

「恭一を容疑者みたいに言うな」

「仕方ないだろ、現状そうなんだから」

襟を正し、表情を引き締めた室町は、憤る三城に背を向けて、周囲の警官に挨拶をしながらテープの中、遺体発見現場へと入って行ったのだった。



 
*目次*