三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・22



室町が現場へと消えると、三城は急いで自分達の客室へと引き返した。

もしや幸田が戻っているかも知れない、という願望は無残にも砕け散ったが、気を沈めている暇もなく座卓の前に腰を降ろすと愛用のミニノートを広げる。

ただ黙って、警察が幸田を解放するか犯人を検挙するのを待てる訳がない。

人並み外れた行動力と頭脳への自信から、三城はじっとなどしていられなかった。

そして三城は行動力や頭脳だけではなく、勘も酷く働く方だと常々思っている。

その勘が囁くのだ、「絶対に犯人はアイツだ」と。

まだ顔も見た事の無い犯人を想いながら、PCをインターネットに接続し検索を開始する。

すると簡単に目的の名前を知る事が出来た。

「真田和馬【さなだ・かずま】・・・」

モニターに映し出されたその名前を口の中で呟き、三城は携帯電話を取り出す。

電話帳から呼び出した番号をダイヤルをした。

「、、、、もしもし」

コール数回で出た相手は至極不機嫌そうだ。

今は午前8時前という事を思えばまだ寝ていたのかもしれないが、三城の中に「気後れ」という言葉は無いのだろう。

相手の機嫌などお構い無しに口を開いた。

「もしもし、秋人兄さん、調べて欲しい事があるんですが」

電話の相手は一昨日実家で会ったばかりの実兄、秋人だった。

丁寧だが焦った口調で言う三城に対し、兄・秋人は諦めにも似たため息を漏らす。

「何だ?そんなに特殊な事か?」

「人探しなのですが」

三城の言葉に、良くなりつつあった機嫌が一気に元に戻ったようだ。

キツイ口調が返ってくる。

「そんな事、探偵でも雇え。切るぞ」

「その人物の二丁目での出入りが知りたくて」

切られては堪らないと、三城は慌てて言葉を繋いだ。

二丁目と言えば新宿二丁目である事は説明しなくても解ったのだろう。

なにせ、秋人が一号店を開店し今でも頻繁に顔を出すバーというのが、その「二丁目」に有るからだ。

「、、、、はぁ、解った。名前と写真をメールしろ」

少し間を置いて、秋人は「やれやれ」とばかりに了承の意を示した。

「写真はありません、名前なら。」

「またそんな無茶を」

「すみません、今度店で一番のボトルを降ろしますので」

ニヤリと表すのが正しいだろう笑みを口元に湛え、相変わらず「何処が悪いと思っているんだ」と聞き返したくなるような飄々とした口調で三城は答えた。

今までの真剣な声が全て演技だったのではないか、とすら疑ってしまいそうだ。

「お前にそんな事望んでない。そんな事より、、、恭一さんを一晩貸してくれ」

兄秋人も負けず劣らずで、クスリと笑ってみせるとこの上なく意地の悪い声で言ってのける。

「お受けするとでも思っているのですか?」

「まさか」

「だったら言わない事をお勧めしますよ。では、お願いします。一刻も早く」

「わかったよ」

鋭い瞳に口角だけを笑みに上げた三城は通話を切り携帯をPCの横に置く。

ポケットから煙草を取り出し、苛立った仕草で咥えて火を点けた。

「何が恭一を貸せだ。糞が」

そんな事を了承するくらいなら自分が殺人犯となりお前を殺す、と内心毒づく。

キーボードを打ち鳴らし、すぐさま秋人のメールアドレスに先ほど見つけた名前と澤野の名前を送った。

送信が完了した旨がモニターに表示されると三城そこをじっと見つめる。

「直ぐに捕まえてやる」

警察なんて当てにならない。

それが昔からの三城の持論だったが、単なる組織嫌いという話しもある。

「俺から逃げられると思っているのか?バカが」

よほど気が立っているのか口汚い言葉を続けて発し、送信完了画面のままのモニターを見つめて煙草を吹かしている背後からは、怒りの炎が立ち上がっていた。



 
*目次*