三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・23



「取調室」となった客室では、複数の刑事が幸田を見つめる中、当の幸田は俯いたまま嫌な沈黙が続いていた。

福田は、幸田と三城の関係を勘繰ろうとするし、周りの刑事は何も言わない。

二人の関係を聞く事が今回の殺人事件にどれほど関わってくるのか解らないが、一つを話せばそれが2倍3倍の言いがかりを付けて返ってくる気がしてならなかった。

その為、迂闊に口を開きたいとは思わない幸田はだんまりを決め込むばかりだ。

「幸田さんねぇ、いい加減何か言ったらどうなんです?」

呆れと疲れが入り混じったような声で福田が言う。

「何か」を言ったところで信じないだろう、といっそ言ってやろうかと思った。

だが警察に口答えをする勇気も気力もなく、咄嗟に顔は上げたが、やはり開けかけた口を閉じ再び俯く。

これでは疾しい事があって黙っている風に見えるかも。

実際はそうではなく、事実を訴えても信じてもらえない事に対する諦めだ。

どうする手立ても思いつかず、幸田は密かにため息を吐く。

だが、不意に襖の外が騒がしくなった。

何事かと幸田が顔を上げると、ガラリと襖が開けられる。

そこに居たのは先ほどの検視・室町だった。

改めてよく見ると、ビシッと着た質の良さそうなスーツからして福田はじめそこらの刑事との格の差を表しているかの様だ。

「福田警部、少々よろしいですか?」

口調こそ丁寧だが、断る事を許さないとばかりの口調で室町は言った。

渋々立ち上がった福田は室町の傍らに立つ。

並ぶとより一層室町の美麗さや知的さが際立ち、福田が小者に思えてくるのだが、幸田にはそこまで考える余裕はない。

呆然と二人のを見つめ、漏れ聞こえてくる会話に耳をそばだてる。

「今から旅館の関係者に話を聞きに行きます。殺害現場は特別室だそうで普段は使われていないみたいですね。管理体制なども確認する必要があります。」

「管理体制、ですか?」

「えぇ、幸田さんが鍵をあける事が出来たのか否か。私の個人的な意見では幸田さんを容疑者から外して構わないと思っているほどです」

室町は至極真面目な面持ちのまま、幾分自分より身長の低い福田を見下ろす格好で言ってのけた。

福田は、色々と気に入らないのだろう。

不機嫌さを隠そうともせず、眉間に皺を寄せると渋った風に言った。

「ですがね、これで幸田が犯人だった場合、容疑者を逃がしたと叩かれるのは我々なんですよね。」

「無実の確たる証拠が無いと解放する気はない、と?」

「簡単に言えばそうですね。幸田には死亡時刻のアリバイがないんでしょう?」

福田はチラリと幸田を振り返った。

確かに、その時刻のアリバイは無かったが、それは仕方が無いだろう。

一緒に泊まっていた三城は座卓のある部屋に居たと言うが、三城の言葉では信用しないかもしれない。

事実としては、その時間幸田は三城により動けないほど体力を消耗させらえれて倒れていたのだ。

「解りました、ではもう少しここに居ていただきましょう。ただし、重要参考人として」

福田は顔を顰めたが、幸田に対する呼び名がどうあれ、解放しないでようならそれで良いと思ったのだろう。

頷き了承を示した。

「わかりました」

「では、行きましょうか。ロビーに集まっていただいています」

幸田に会釈をし、室町は部屋を出て行った。

チラリと視線がぶつかった瞬間、室町は真面目な表情を一変させてニヤリと笑んだ気がしたが、幸田の思い違いかもしれない。

福田も後に続き、他の刑事に数名出て行ったが、幸田に言葉をかける事はなかった。

圧迫感の減った室内で、幸田は力を抜く。

福田が自分を疑うのは仕方が無いとは思っている。

男二人が泊まるには不釣合いな旅館に宿泊し、その二人の関係も疑わしい物と来てる。

中年の福田にはゲイというものの存在など思考の中に欠片もないのかも知れない。

そう思うと、幸田は深いため息を漏らしていた。



 
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