三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・25



予想通り、大した収穫になどならなかった。

フロント奥のスタッフルームから出てきた室町は密かにため息を吐く。

事情聴取をした所で犯人を名乗り出る者が居るなど夢みたいな事を思っているわけではないが、ここまで不信な人物一人の目撃情報も得られていないのだ。

これでは福田でなくても幸田を問い詰めたくもなるだろう。

他の刑事を散らすと、もう一度出そうになるため息を飲みこみ、ポケットから煙草を取り出す。

誰も居ないのをいい事にロビーの応接セットに腰掛け、紫煙を吐き出していると、正面からミニノートを抱えた三城が走って来るのが見えた。

いつもクールを気取っている三城には珍しく慌てた様子だが、何か変化でもあったのだろうか。

ローテーブルに置かれている灰皿に灰を落とし、膝に肘を付いて前かがみになった室町は口を開いた。

「どうした?このままだったら一旦お開きになるだろう。まるで何も出てこない、、、」

「は、警察だかなんとか偉そうにしておいてそのザマか。」

息を切らせながらも三城は高飛車な態度で悪態を付く。

呼吸を整え、室町の隣に座ると同じく煙草を取り出し火を点けた。

「なんだよ、急いでたんじゃないのか?」

三城の警察嫌いは知っており特別腹はたたなかったが、そんな言い方をされて面白い訳もなく室町は憮然とする。

「あぁ、澤野と真田和馬の関係。それと高大議員。」

三城はソファーの背もたれに背を預け、天井を見つめながら何でもない口調で言った。

言い終わると首だけを捻って室町を見やり、「どうだ」とばかりにニヤリと笑んだ。

「何だって!何処から得た情報だ!」

驚きの声をあげた室町は勢いよく立ち上がり叫んだが、すぐに息を落ち着けて席についた。

「情報は兄貴からだ。」

「冬樹さんか?」

「まさか、秋人兄さんだ。」

「そうか、あの人も顔が広い。」

「まぁな」

「話してくれ。」

室町は煙草を揉消し、ポケットから手帳を取り出す。

室町のいつにない真面目な「仕事」の顔を垣間見た三城は僅かに目を見開いたが、同じく真面目な面持ちに変化した。

「真田と澤野は恋人もしくは愛人関係だ。真田の以前の愛人は高大国会議員。いや、高大議員の愛人だった、と言った方がしっくりくるな」

はっきりと淀みのない口調で話しながら、ローテーブルに置いたミニノートを起動させる。

「澤野と真田の関係はまだ出てきていないぞ」

「そうだろう。真田は相当用心深かったらしいからな。だが解って調べれば何かしら出てくるだろう。お前らは権力だけはあるからな。」

嫌味な三城の口調にも室町は反応を示す事はなく、メモを取った自らの手帳を見つめる。

「高大議員との関係は?」

「一年ほど前から半年くらい前まで都心部、主に新宿近辺のホテルで会っていたらしい。こちらはこれがある」

ミニノートを操作し、秋人から送られて来た写真を表示して見せる。

映し出されると、室町の息を呑む音が聞こえた。

「俺は真田の顔を知らんがな。」

「、、、いや、間違いない。俺は今さっき会ってきた所だ。多少今の方が地味だが、、、」

モニターをマジマジと見つめた室町は呆然とした声で呟いた。

高大に対して驚いているのか、真田に対して驚いているのか。

「男同士」という意味ではどちらもなのだろう。

「ここから新宿に行くには、特に夜会うとなれば泊まりだろう。真田の不信な外泊がないか周囲の人間に聞いても答えないだろうから、これを本人に見せて高大との関係を聞け。上手くかわされても、ここ数ヶ月の行動を聞けばボロも出てくるだろう。」

「高大と別れてからも外泊をしていたら信憑性が増す、という事か。」

「あぁ、高大から裏づけを取るのは難しいかもしれないが、そこは上手く「高大は認めた」と思い込ませればいい。」

「だが澤野との関係まで辿り着けるか?」

「さぁな。それは警察の腕次第だろ。それに、二人が一緒に居るのを見た目撃者は沢山いるんだ。国家権力を使って調べたらすぐ証拠を掴めるだろう。」

「そりゃどうも。それより教えろよ。」

「何を?」

一息吐いたとばかりに三城が煙草を取り出すと、室町もそれに倣うように煙草を咥える。

「どうして二人の関係に気がついた?知っていたのか?」

室町が三城をギロリと睨む。

「いや。ただ、生前の澤野に会った時ゲイだ思ったんだよ。恭一をいやらしい目つきで見てたからな。」

「だからって、どうして真田に辿り着くんだ。ゲイだって皆が皆二丁目に居るわけじゃない。」

呆れた口調の室町を、三城は一笑する。

「だが奴らは居ただろ?」

「そりゃそうだが、、、」

「それと、殺されたのは特別室だろ?そんな場所で殺害をしようと思うのは旅館の人間だろうし、旅館の人間で男なら。」

「真田和馬って訳か?そりゃ無理があるだろ。他にも男性のスタッフは居たんだし。」

「他って料理人とか裏方だろ?そんな奴が旅館内をうろうろしてたら目立つ。早朝といっても仲居や女将は働いている訳だし人目につくだろう。」

「そうか、、、だが、たとえ澤野と真田に関係があったとしても、殺害したのは嫉妬した女将、だとか思わないのか?」

「思わんな。澤野が殺されたのは正面からの打撃だろ?女に正面から花瓶を振り上げられたら避けれるだろう。あんな重い物を簡単にふりまわせるとも思えない。」

「、、、、それで支配人。というわけか」

今回の事に関しては、三城の勘がものをいったという訳だ。

室町は頭の良すぎる友人をチラリと見ると、羨望よりも呆れからため息を漏らしたのだった。



 
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