三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・26



旅館関係者、主に経営陣に話を聞き終わった福田は、「大した収穫もなかった」と機嫌もあまり良くなく、青梅警察署の刑事達の詰め所にもなっている事情聴取をしていた部屋へと戻った。

幸田の元へは向かわず、部屋に残っていた部下である刑事達を集めて話を聞かせる。

「簡単に片付く事件ではないのだろう」と言うのが皆の一貫意見だった。

一旦署に戻るのが妥当だと思うのだが、警視庁から来たキャリアの警視がそうしないのだ。

きっと頭でっかちで、自分の手柄しか考えていないような人物に違いない。

福田にとって、室町の自分よりも随分と若いくせにエリート然とした高飛車な態度が気に入らなかった。

「撤収の判断を奴が下さないならいっそ自分が」と、福田が思い始めた時、先ほど室町と一緒にいた刑事が部屋へと飛び込んで来た。

刑事の名前は石坂【いしざか】と言い、大学出の24歳、新人刑事だ。

警視庁に勤める室町の部下で、キャリアでは無いが有名大学を卒業しており、勉学意外でも頭の良さを見せる、何より正義感のある真面目な男だった。

だが年よりも若く見える幼い面持ちと、着痩せする体つきで、なかなか刑事の威厳をかもし出せない。

室町より早くに現場に辿り着いたのは、たまたま彼がこの旅館のすぐ近く(と言っても車で30分ほどだが)の所でオフタイムを過ごしていたからだが、オフを潰されても嫌な顔一つしないのが、室町が彼を可愛がる最大の要因だ。

「被害者と真田支配人が恋人関係にあったとの情報が得られました。至急裏付けをお願いします。」

「何!?」

キビキビとした石坂の予想外の発言に、青梅署の面々はただただ驚いた。

だが何も決定的な情報が無い今、信憑性や理解はともかくとして、納得の出来る関係性を示されれば動かざるを得ない。

石坂により、澤野と真田の関係の細部を聞かされた青梅署の刑事達は眉間に深い皺を寄せたが、それ以上に高大議員と真田の関係を知らされると盛大な驚きの声があがった。

「まさか、あの高大議員が、、、」

刑事の一人が呟いた言葉に、他の刑事もウンウンと頷く。

「それに関しては、写真もあります。プリンターが無くてプリントアウトが出来ていませんが、室町警視に言えばすぐ見せてくれると思います。」

当面高大への事情聴取はしない方向である、という判断も室町が下した。

高大が直接事件に関わっていない可能性が高い事と、万が一真田が犯人で無かった場合を考えてだ。

「一旦青梅警察署の捜査本部に戻りますか?」

当然そうするだろうとばかりに福田は口を開いたが、石坂は首を横に振った。

「いえ、警視はまだ帰らないとおっしゃってますので、我々は残ります。」

「は?」

福田の眉間に寄せられた皺は、はっきりと嫌悪を表していた。

やはりキャリアの警視などは現場を荒らすだけだ、と感じたのだろう。

確かにそれは無いとは言えなかった。

警視という立場にありながらも、室町は自他共に認める現場主義だ。

「公務員一種なんて取るんじゃなかった。」

酒の席で三城が何度も聞かされた定番の愚痴だ。

そんな事を聞かされた相手が三城でなければ、「いい身分だ」と嫌味を返されていただろう。

「事件は会議室で起こってるんじゃない」と、かの有名なセリフを実際に言った事も彼は数度あったが、ウケを狙ったつもりは一度も無い。

「それでは引き続き捜査をお願いします。こちらも関係性の裏づけ、其の他証拠の検分に当たります。」

年上の刑事達に最低限の敬意を表し、頭を下げた石坂は急いだ足取りで部屋を出て行った。

「何なんだよ、ここで出来る事なんか限られているだろ。」

後方で年配の刑事の一人が悪態を吐いた。

「そうだな、とりあえずここには俺が残る。お前らは一旦署に戻れ」

やはりキャリアは嫌いだ、と憤りながらも、それが福田が部下に与えるべき最善と考える方法だった。



 
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