三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・3



一般の道を車一台しか通れそうにない小道に入る事数分。

外の世界とは隔離されたような場所に、その旅館はあった。

エンジンを切り車から降りると、聞こえて来るのは鳥の鳴き声だけ。

その鳥も真冬の今は少ないのか、一羽鳴き暫くしてまた一羽鳴く、といったところだ。

一泊二日のため二人は大した荷物も無く、纏めて入れてきた小ぶりのスポーツバックを三城が持っているだけだった。

大きく開いている荘厳な門を中に入り石畳を歩と、観光名所にある寺を思わせる、圧を感じさせる建物がすぐに現れた。

カラッ

小気味良い音と共に扉をスライドさせ、中へと進んだ。

広々としたロビーは、外装を裏切る作りで、和風だが近代的で洒落ている。

モダン、とでもいうのだろうか。

「いらっしゃいませ、三城様。お待ちしておりました。女将の翔子[しょうこ]と申します。」

待っていたかのように、女将が現れ丁寧に頭を下げた。

二人を出迎えたのは40歳手前の色気漂う美人女将だ。

妖艶と言う言葉が脳裏を過ぎる、きっちりと結い上げた黒髪から覗くうなじがなんともセクシーな、年を重ねたからこその美貌の女性だった。

真正ゲイを名乗る(名乗っている訳ではないが)幸田ですら、その色香に当てられそうだ。

無意識に幸田は、ジッと見てしまっていたのか、目が合うと女将がフワリと笑んで見せた。

「、、、っ」

言葉無く視線を反らすと、今度は三城と目が合い、こちらには鋭く睨まれてしまった。

幸田の動向などお見通しなのだろう。

「どうぞ、お部屋へ案内いたします」

女将は三城からバックを受け取ると、男二人ずれという事にも変な顔一つせず、にこやかな笑みを湛えたまま「どうぞ」と廊下を促した。

さすが高級旅館の女将だ。

変な事にも感心しながら着いていく幸田は、更にその後を歩く三城に睨まれっぱなしだった。

鈍感だろう自覚をしている幸田にもはっきりわかるほど、その視線が痛い。

だが、何故そんな目で見られているのかまでは、やはり解っていないのだ。

この旅館は時代劇にでも出てきそうなほど入り組んでいる平屋造りで、聞けばやはり200年近く前に建てられた物らしい。

部屋までの道のりは遠かった。

幸田からすれば何処も似たような形と色の扉や壁ばかりで、しっかり覚えていないと確実に迷子になりそうだ。

ファミリー向けの旅館や民宿では、見取り地図が掲げている所も多くあるが、ここにそんな無粋なものはないだろう。

「こちらがお部屋になります」

『翡翠の間』と書かれた一室の前で女将が立ち止まり、膝をついて木枠の扉を開く。

道すがら温泉の場所も聞いたが、幸田にはもう解らなくなっていた。

三城ならば全て覚えているだろうから、連れて行ってもらえば問題はない。

やはり「情け無い」と思いながらも、頼りになりすぎる恋人を見上げると、カチリと視線が合う。

三城は相変わらずの双眸で無言のまま幸田を見返したが、苦し紛れに幸田が笑みを浮かべてみせると、大きなため息を吐かれたのだった。



 
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