三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・30



怒涛の新婚旅行は終わり、二人は三城の自宅へと戻った。

疲れきった様子の幸田は、張り詰めていた気が抜けたのかぐっすりと眠っている。

それというのも、先ほど幸田の携帯に予備校の主任から連絡が入り、本日は休校との旨が伝えられた。

今日は経営陣による会議が開かれ、明日以降教師達に連絡が入るそうだ。

そして、澤野の葬儀の日程も知らされた。

「通夜は明日、葬儀は明後日だそうです。」

何処か他人事のように呟いた幸田だが、しっかりと参列するのだろう。

それならば三城も一緒に行くつもりでいる。

全くの無関係ではないのだ。

それどころか、澤野を殺した犯人を見つけたのは三城のようなものだ。

「予定が無いならしっかり休め。」

三城の一言が後押しとなり、幸田は眠り馴れたキングサイズベッドに身体を沈めたのだった。

幸田が眠り暫くして、室町から三城の元へ電話がかかって来た。

「無事、真田が逮捕されたぞ。」

「そうか。」

三城はすでに事件への興味は薄れていたのだが、事のあらましを話す室町を遮りはしなかった。

室町の話を要約するとこうだ。

真田は身元を隠して澤野と付き合っていたが、澤野はその真田の身元を調べて旅館へとやって来た。

妻と別れろと言われたので拒否をしたが、「別れなければ性癖をばらす」と脅された為、咄嗟に殺してしまったそうだ。

高大とは、高大があの旅館に宿泊しにやって来た時関係が出来、その後月に数度新宿や銀座に呼び出されていた。

別れた後も度々その辺りに訪れてはハッテンバと呼ばれるバーに行っていたそうだ。

男と付き合ったのは高大が初めてらしく、はっきりとは言わなかったが、今まで知らなかった性癖に気づいた・癖になった、という事だろう。

「そんな事くらいで人を殺すのか。」

話を聞き終わった三城は心底バカにしきって言ったが、室町は呆れた声をあげた。

「あのな、お前みたいに同性の恋人を、自慢げに周りに言いふらしてるヤツの方が少ないんだよ。」

「別に言いふらしてる訳じゃない。たまたまだ。」

「どうだかな。」

常に自信家である三城は、自分の行動に恥じる事など殆どなかった。

恥ずかしいと思う事はしない、恥になる結果は残さない、と言い実際に行動に移せているのは類稀なる彼の力量故だ。

そのうえ、その「恥」たる対象が最愛の恋人だと言われても、何を恥じて然るべきか、想像も出来ない。

だが室町が言うように、大抵の「同族」はそうでないのだろう。

かくいう幸田も、今まで「同族」以外には誰にも自分の性癖を話した事が無いと言っていた。

「そういうものか。」

「あぁ」

二人の間に沈黙が流れた。

互いが何を思っているのかは計り知れないが、三城はベッドルームで眠る幸田を想った。

三城にとって、幸田は恥ではなく、自慢なのだ。

何処の誰が何と言おうとも、幸田が世界で一番可愛くて愛しい存在である事は変わりはしない。

「恭一さんを幸せにしろよ。」

「当たり前だろ。」

先に口を開いた室町の呟きのような言葉に、憮然と言い放った三城は、幸せになれなかったカップルを思いながら電話を切った。



 
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