三城×幸田・新春湯煙殺人事件・編・31



警察は、予想を遥かに超える速さで僕を捕まえに来た。

何故だが僕は、捕まらないのではないかと思っていたのに、現実は全く甘くはない。

任意同行にも大人しく従った。

それを知った翔子がどのような顔をしていたかは、覚えていない。

どうでもよかった。

落ち着いて考えれば、考えなくても良いほどあっさりと、僕は翔子よりも克己【(澤野)かつみ】が好きだと言える。

好きで、好きで。

でも僕は、男同士だという「異常さ」を周囲に知られる事を恐れて、克己と会っている時以外は「普通」を装おうと必死だった。

朝から晩まで必死に働き、愛想笑いを浮かべ、美人女将と言われる翔子を抱く。

何も楽しくなど無い日常を、息苦しさを感じながらも過ごしていた。

月に数度克己と会い、他愛も無い話しをし、身体を重ねて「愛してる」と囁きあっている時だけ、僕は笑えた気がする。

けれど、克己と別れた後に残るのは、いつも虚しさだけだった。

後孔に喪失感を感じると、自分の「異常さ」を思い出す。

かつて神が禁じた掟を、僕は破っているのだ。

雁字搦めの心を持ちながらも、けれど旅館に克己が現れた時はとても嬉しかった。

それと同時に、静かな怒りも湧き出ていたのだろう。

何故、克己が僕の「普通」の中に現れたのだ、と。

その事に僕は直視をせず、喜びだけ無理矢理に注目していた。

「二人っきりで会いたい」と言われると胸が高鳴り、期待もした。

待ち合わせ場所をめったに人が近づかない特別室に指定し、スキンやティッシュなども用意して僕はそこに向かった。

けれど、いざ「一緒に来てくれ」と言われると、僕は首を縦に振る事が出来なかったのだ。

何故「行く」と言えなかったのだろう。

きっと僕は「普通」であるという、なんともつまらない「常識」にしがみ付こうと必死だったのだ。

そんな物が一番大切などではない、と気がついたのは、愚かしい事に独房の中でだった。



 
*目次*